2024年11月22日(金)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2017年3月22日

 トランプがいくらイラン核合意をけなしても、米国が一方的に破棄することはまず考えられません。合意は米国のみとの間のものではなく、欧州3か国、ロシア、中国も当事者です。一方的に破棄すれば、論説の言うように米国は孤立してしまうでしょう。

 トランプ政権が他の方法で合意を葬り去ろうと考えているのは、まず間違いありません。あれほど合意を非難していたトランプが、合意の有用性に容易に納得するとは考えられません。

 核合意に対する反対は米国内で根強いものがあります。トランプ政権の立場を支持する者には事欠きません。

 イスラエルのネタニヤフ首相は合意反対の急先鋒であり、先般のトランプ大統領との会談で、トランプに反対を強く述べたものと思われます。これからもあらゆる機会をとらえて、トランプに合意反対を述べ続けるでしょう。

 このようにイラン核合意反対の力学が種々作用しています。

イランの核武装の阻止が最優先事項

 イランの核合意は、交渉の当初から議論を呼びましたが、難交渉の末合意が成立したのは、イランは問題児ではありますが、イランの核武装の阻止が最優先事項であることについて共通の認識が生まれたためです。トランプ政権もこの点を考慮すべきでしょう。

 イラン核合意を葬り去ろうとするトランプ政権の動きに影響を与えうるものとしては、まずIS(イスラム国)との戦いが考えられます。トランプはISの殲滅を最優先事項の一つに挙げています。今イラクではISとの激しい戦いが繰り広げられていますが、重要な役割を果たしているグループの一つがイランのシーア派民兵です。もし米国がイラン核合意の破棄をめぐってイランと対決すれば、イラクでISと戦っているイラン・シーア派民兵は、矛先をイラクの米軍に向ける恐れがあります。そうなれば、イラクにおけるISとの戦いは大きな後退を余儀なくされることになります。トランプ政権はそのリスクを避けようとするかもしれません。

 今一つはロシアです。ロシアは以前よりイランの原発計画を支援してきており、ブシェールの原発の1号機の完成を支援するとともに、2、3号機についても支援を決めています。ロシアはイランとの原子力分野での協力が順調に進むことを期待しています。トランプはロシアとの関係改善を望んでいるようであり、イランとの核合意がこじれ、ロシアにとって重要なイランとの協力に齟齬をきたすのは避けたいと考えるかもしれません。

  
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