「こんな場所が、国分寺駅から歩いて二分足らずのロケーションにあること自体が驚きです。東京在住でも、知らない人が多いんじゃないでしょうか」
園内に入るとすぐ、目の前に広がる広大な大芝生。それを横目になだらかな園路を下り、件の茶室に至ると景色は一変し、古き武蔵野の自然をそのまま切り取ったかのような佳景が現れる。
「枯山水や借景の庭が、あくまで『見る』ことにこだわった“額縁型”の庭園だとすると、ここは典型的な “参加型”。庭の中に踏み込んで、歩を進めるごとに変わる景色を楽しめるのが魅力ですね」
山下さんならではの絶妙な喩えに「なるほど」とうなずき、同庭園のセンター長を務める本間明さんの案内で、野趣あふれる石組の小路を下りる。次郎弁天の池の面は木漏れ日にきらめき、澄んだ水の中をコイがゆっくり泳いでいた。それにしても静か……すぐ外の喧騒は木々の連なりにさえぎられ、池に落ちる滝の水音と梢をめぐる鳥のさえずりだけが、耳を優しくなでていく。
「この池の水は、自然の湧き水。台地に降った雨水が、ハケと呼ばれる崖地からしみ出してくるのを集めています。天然の濾過〔ろか〕装置を通ってきていますので、冷たく、澄んでいるのが自慢です」
本間さんに勧められ、池に注ぐ水源からの流れに手をひたす。水温は一五度から一八度で年中変わらない。聞けば、この池に集まった水は、最終的に野川の水源の一部になるのだそうだ。池に臨む茶室の名前からもわかるように、紅葉の季節は錦繍〔きんしゅう〕さながらの風情が美しいのはもちろん、園路周辺には春のカタクリ、夏のホタルブクロ、ヤマユリ、冬にはロウバイやツバキなど、四季折々の野の花や花木が彩りを見せ、何度来ても見飽きることがないという。
「ぱっと見では気づきませんが、手入れが実に行き届いています。これ見よがしに枝を剪定したり、刈り込んだり、まるで『床屋に行きたて』のように手の入った庭よりも、こんなふうにさりげなさを残しつつ、しっかり手入れはされている……というのが、いいお庭のたたずまいじゃないでしょうか。ちょうど、床屋に行って一〇日目くらいの感じですね(笑)」