笑っていたり、怒ったような顔だったり、どこかユーモラスな石彫の羅漢像を、早速ご自分のカメラにおさめる山下さん。あまりに無造作に並べられているためか、通り過ぎる人々もほとんど気づかないが、近年とみに人気の高い若冲の作品となれば、ファンは見逃せないだろう。
「そしてもうひとつ、三重塔。こちらは広島の古刹・竹林寺〔ちくりんじ〕にあったのを、やはり大正期に山縣からこの地を譲り受けた男爵・藤田伝三郎が購入したそうですが、様式から見て室町時代の可能性が高い。とすれば、少なくとも東京二三区内では最も古い木造建築ということになりますね」
残念ながら時の経過で傷みが目立つものの、残照に照り映える姿はなかなかのもの。ここにも、普段着でのぞける東京の名庭があった。
東京らしい庭とは
駆け足でまわった庭園めぐり。東京らしい庭とは? との問いに「どこか幾何学的な京都の庭が、それと対峙することで思索をめぐらせる場だとすると、東京の庭はその中を歩き、五感で感じる行為を通じて考えにふける……そんな側面があるような気がします」と言う山下さん。
「そもそも、日本人には自然を自分の身近に感じ、それを意識していたいという嗜好があるのではないでしょうか。その点で、庭はまさに最も身近な自然であり、山水や花鳥を描いた屏風などは『インテリア化した庭』と言えるかもしれません。一双の屏風を左右に立て、バーチャルな自然を体験しようという想いと、東京の庭のありようはどこか通じるものがある。そんなふうにも思えるんです」
まさに至言。これからは庭を見る視点が少し変わることになりそうだ。
山下裕二(やました・ゆうじ)
1958年、広島県呉市生まれ。日本美術史家、美術評論家、明治学院大学教授。東京大学大学院修了。著書に『室町絵画の残像』(中央公論美術出版)、『水墨画入門─見る・味わう・愉しむ』(淡交社)、『日本美術の二〇世紀』(晶文社)ほか。また赤瀬川原平氏との共著に『日本美術応援団』(ちくま文庫)、『雪舟応援団』(中央公論新社)、『京都、オトナの修学旅行』(淡交社)など
※「東京の庭めぐりMAP」 はこちら
東京都内14カ所の庭園を紹介しています
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