チーム内に“味方”をつくる
――大地監督自身の中で「これだ」というイメージを掴むまでには迷う時もあるのではないでしょうか?
大地:迷います。だから、僕は自分が迷って「これはおもしろいよな?」って言った時に、「おもしろいですよ」って言ってくれる人が、そばにいたほうがいいんです(笑)。
よく、「イエスマンはそばに置かないほうがいい」っていいますよね。僕は逆ですね。イエスマンがいないと作れない(笑)。
反省は、自分ひとりでもできるからいいんです。「これ、どうだろう」って言った時に「いいですね」ってこちらのテンションを持ち上げてくれるほうが助かります。
――それはつまり、身近に“味方”がいたほうがいいということですね。
大地:そうですね。味方がいない時は、スタッフの中に見つけ出すか、知っている人を外から連れてくるか。そこは大事です。僕の最初のころの監督作品――『こどものおもちゃ』や『セクシーコマンドー外伝 すごいよ!!マサルさん』、『十兵衛ちゃん』――には、桜井(弘明)くん(*)が参加してくれて、本当に助かりましたね。
*桜井弘明:アニメーション監督。代表作に『デ・ジ・キャラット』『斉木楠雄のΨ難』など。
桜井くんは『赤ずきんチャチャ』で一緒に演出をやっていたころからの知り合いで、気心が知れていたし、作るものもおもしろかったので、いろいろ話をしやすかったんです。ほかの作品で監督になるって聞いた時は、ああ、もう僕のそばからいなくなってしまうのだと思い、どうしようかと思いましたね(笑)。
初めての人は3回まで見守る
―― 一方で、初めて大地監督の作品に参加される方もいますよね。そういうスタッフにはどうやって作品世界を理解してもらうのでしょうか?
大地:たとえば『おじゃる丸』に初めて絵コンテで参加してもらう人には、3回はやってもらうようにはしています。こういう言い方がいいかわかりませんが、監督としては3回までは見守ることも必要なんです。『おじゃる丸』には、新しく加わったスタッフがやりがちな「べからず集」も用意してあります。
でも、制約ばかりだとのびのびやってもらえなくなるので、「べからず集」を渡しつつも、最初は「『おじゃる丸』何回か見たことあるよね? あんな感じでお願い」というぐらいで始めてもらいます。
それで出来上がったものが違っていればこちらで手を入れて、その修正版を本人に戻します。それを3回繰り返して、感じがつかめたところで本格的に参加してもらうようにします。3回やっているうちに、少し固くなって来る傾向があるので、その時は「あとは自由にやっていいよ」と、伝えたりします。
“この人のため”と思えば乗り切れる
――監督をはじめチームのリーダーというのは孤独にならざるを得ない部分があります。大地監督は、そこでどうやってモチベーションを保っているのでしょうか?
大地:さっきも話をしましたけれど、アニメって結構制作に時間がかかるので、その間は視聴者の存在が結構遠いんです。だから、自分で誰か具体的な人を頭において「この作品はその人のために作るんだ」っていうことを考えます。
たいがいは自分をその作品に誘ってくれた人のことが多いですが、時にはスタッフの誰かだったり、自分の家族だったり、無理やり心の中で決めることもあります。時にクサることもあるわけですけど「あのヒトがおもしろいって言ってくれるためにやってるんだ」と思うことで乗り切れるんです。
――ありがとうございました。
チーム内に“味方”をつくる
「イエスマンを置いてはいけない」という言葉はビジネスの現場でもよく耳にします。それは裏を返せば、誰しも本心のところでイエスマンを強く求めてしまうものだからではないでしょうか。「イエスマンは置かない」と力強い決断を下せるリーダーであればそれでよいと思います。しかし、20年以上も第一線でご活躍されている大地監督が「イエスマンは必要」と口にする時、「そこまで強い人間でなくても、リーダーの役割は立派に果たせるんだよ」というメッセージを私たちは受け取ることができます。それはすでにリーダーの立場にある方だけでなく、これから何らかのプロジェクトを率いていく方にとっても勇気付けられるメッセージではないでしょうか。(編集部より)
'68年、静岡県生まれ。'00年からフリー。アニメ作品・アニメ業界への取材を行っている。著書に『「アニメ評論家」宣言』(扶桑社)、『チャンネルはいつもアニメ』(NTT出版)、『声優語』(一迅社)、『ガルパンの秘密』(廣済堂新書、執筆は一部)などがある。TV番組に出演したり、複数のカルチャーセンターで講座も担当する。
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