どうしてもプレーヤーとしての意識が抜けないという荒木哲郎監督が、『進撃の巨人season2』でマネジメントに徹することができたそのワケとは……?
1本のアニメ作品に関わるスタッフは100人以上。アニメーション監督は、そんな大所帯を率いて作品の完成を目指すプロジェクトリーダーだ。作品をちゃんとまとまった形にするために、監督は打合せで狙いを説明し、成果物をチェックしてOKかNGかをジャッジする。アニメはそんな「打合せ」と「チェック」の積み重ねで出来上がっている。アニメーション監督はそこでどのようなマネジメントを行い、作品をあるべき形へと導いているのか。さまざまなアニメーション監督の作品づくりを支えるマネジメント術から、ビジネスパーソンにも役立つポイントを伝えていく。
『進撃の巨人』は王道のエンターテインメント
――荒木監督は自分が思い描くイメージをスタッフに伝えるために、どんな工夫をされていますか?
荒木:その作品を他の作品より際立せる、「頑張るポイント」を決めています。そこをはっきりと言語化して、メモに書くんです。打ち合わせの時には、そのメモを出すようにしています。
――『進撃の巨人』では、どこを頑張ると決めたのでしょうか?
荒木:『進撃の巨人』は最初にショッキングな表現が注目を集めたこともあって、アニメ化にあたり残酷な表現をとことんやるべきだと考える人もいました。地上波ではなく、もっと自由度のある媒体を選ぶべきではないかという話も出ていたくらいです。
でも、自分の目に映った『進撃の巨人』はエクストリームな外装を持ちながらも、少年漫画らしい王道のエンターテインメントでした。なので、「多くの人がお茶の間で見られるものにする」という部分を頑張るポイントのひとつに決めました。それと「立体機動シーンを映像的な見せ場にする」というのも、初期からはっきり提示していたひとつです。
――『進撃の巨人』には原作がありますが、オリジナルの企画『甲鉄城のカバネリ』ではどうだったのでしょうか。
荒木:『カバネリ』では、「流行にとらわれない普遍的なエンターテインメントをつくる」ということをポイントにしました。10年後に見てもおもしろいと思ってもらえるもの。どの時代に作られたアニメか気にならないものにする、という目標を決めました。それと「メインキャラクターを魅力的に描くこと」。当たり前のことですが、それを何より優先するという宣言をしました。
――打合せでメモを出すのは最初だけでしょうか?
荒木:最初に出すメモは目標を記したものですが、制作が進むのに合わせて、設定などのチェックバックやラフ、アイデアなど、いろいろなメモを出していきます。
以前は、打ち合わせで使ったメモはそのままどこかに消えていたんですが、『カバネリ』の時、ふと思い立ってそのメモに通し番号を付けるようにしたら、制作の方が専用フォルダに分類して保存してくれるようになったんです。制作を進めるうえで、それはすごく大きな効果がありました。それまで断片的に出していた指示がアーカイブされることにより、すべてのスタッフが概覧できるようになったんです。
メモは最終的に200枚くらいまで増えましたが、途中から作品に参加する方も、そのフォルダの中のメモを遡って見てくれたら、作品の狙いや、気を付けなければいけないところをわかってもらえるんです。意図して仕組んだわけではないですが、結果的に自分がたくさん喋らなくてもいろいろのことをわかってもらえるツールになりました。