それに加えて、トランプ大統領の自己愛的性格もバノン氏と距離をあけた要因になっています。2016年米大統領選挙でトランプ陣営の選対本部議長であったポール・マナフォート氏を例に挙げてみます。マナフォート氏は選挙の途中で辞任しました。その主たる要因は親ロシア派との関係ですが、自己愛的性格の強い同大統領は自分よりもマナフォート氏にメディアの注目が集まったことに不快感を示したのです。部下ではなく自分が世間の注目を常に浴びたいという欲求が強いのです。
バノン氏の場合も、メディアが同氏を頻繁に取り上げるようになりました。特に、米誌タイムが「最高の操縦者」と呼びホワイトハウスの影の実力者という印象を与えた点がトランプ大統領と同氏の人間関係にマイナスの影響を及ぼしたとみることも可能です。
仮にトランプ大統領がバノン氏を解雇した場合、マーサー一族とのパイプが細くなることは否定できません。というのは、レベッカ・マーサー氏はバノン氏と思想的に一致しており、同氏とケリーアン・コンウェイ大統領顧問をトランプ陣営に紹介したといわれているからです。
米上下両院議員団のメンバーとして4月12日まで訪日していたジェリー・コノリー下院議員(民主党・バージニア州第11選挙区)によれば、バノン氏のグループとトランプ大統領の娘婿ジャレッド・クシュナー氏のそれを競い合わせる手法は同大統領のマネジメントスタイルです。コノリー議員はバノン氏の影響力低下は一時的なものであって、クシュナー氏を中心としたホワイトハウスの穏健派のやり方が機能しなければ復活すると語っていました。
バノンの影響力低下の意味
バノン氏の影響力低下はどのような意味を持っているのでしょうか。前述しましたように、トランプ大統領には議会からの支持を得やすくなるというアドバンテージが生じます。というのは、バノン氏は議会から政治色があまりにも強く大統領のアドバイザーとして適格ではないと見られているからです。その一方で、トランプ大統領の不介入主義を支持してきた有権者の中には、同大統領の一連の軍事行動に困惑している有権者がいます。内政面ではプラスとマイナスの双方の要素があるといえます。
他方、外交・安全保障面では、バノン氏の影響力低下は日本側にとってプラスの要素になります。トランプ政権は北朝鮮問題を最優先として取り上げているために、第1回目の日米経済対話で農産物及び自動車に関して厳しい要求を突き付けてきませんでした。日本と韓国を含めた同盟国並びに中国と連携して北朝鮮問題の解決を図るため、それらの国々との経済及び通商問題を刺激しないようにするというトランプ大統領の思惑が見えてきます。不介入主義から介入主義への路線変更は日米経済対話にも微妙な影響を与えているのです。
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