図2のデータを基に、NANDメーカーのシェアの推移を示したのが図3である。東芝のシェアは、2010年当時は約36%あり、サムスン電子とデッドヒートを繰り広げていたが、その後、シェアは次第に低下し、2016年第4四半期には18.3%と、6年前の約半分になってしまった。
さらに、NANDメーカーごとに、2010年第1四半期の売上高を1と規格化して、6年間で売上高がどのくらい成長したかを図4に示す。6年間でもっとも成長したのがSK Hynixで、売上高は3.35倍になった。以下、インテルが2.91倍、サムスン電子が2.62倍、マイクロンが2.41倍と続く。
ところが、東芝はもっとも成長率が低く、わずか1.47倍にしかなっていない。つまり、東芝のNAND売上高は、6年間ほとんど成長していないのである。買収額を査定する人が、このような分析を行っているとしたら(間違いなくしているのだろうが)、「東芝のNANDは成長性の低い事業」と評価していてもおかしくない。
綱川社長の「少なくとも2兆円」は大失言
東芝メモリの買収額2兆円は、過去のM&Aと比較しても安すぎる。その原因は、買収先から、東芝が足元を見られており、東芝のNANDの成長性が低いと評価されていることにある。
しかし、NANDを製造できる企業は世界に4グループしかなく、そのNANDはビッグデータの時代に必要不可欠なメモリである。だから、本来ならもっと高く売れてもいいはずである。
ところが、1月下旬にどこかのアナリストが言い出したことが切っ掛けとなり、いつの間にか1.5~2兆円という買収額が定着し、東芝の綱川社長までもが、「少なくとも2兆円」と発言してしまった。これは、売る立場の責任者としては、重大な失言である。
なるべく高く売りたい東芝の社長としては、10兆円くらいに言っておけばよかったのだ。すると、なるべく安く買いたたきたい買収先との間で綱引きが行われ、4~5兆円くらいの落札額になったかもしれない。
世耕弘成経産大臣、経団連の榊原定征会長、そして菅義偉官房長官等のお偉方が、こぞって、「東芝メモリの技術は日本の中核技術で、海外への流出は問題だ」などというような発言をしている。
そして、最も高く応札しそうな中国や台湾企業による買収を阻止するために、日本政府は、外為法違反という珍策まで持ち出した。それと同時に、政府の息がかかった日本政策投資銀行や産業革新機構が買収に乗り出してきた。
筆者は、政策銀や革新機構が東芝メモリを買収するのには反対であるが、日本政府がそれほどまでに、「流出してはならない大事な技術」だと言って介入するなら、せいぜい高く、例えば売上高8166億円の10倍の8兆円くらいで、政策銀や革新機構が買うべきだ。
▲「WEDGE Infinity」の新着記事などをお届けしています。