2024年4月17日(水)

個人美術館ものがたり

2010年7月16日

世の中には時として人智を超えた不思議が起こります。
京阪間に唯一緑が残る場所に建つ、見晴らしのよい美術館には、
人と人との感慨深くも奇しき縁の繋がりがありました──。

 この美術館へはJR京都線(東海道本線)の山崎駅から歩いて行ける。道は少しずつ登り坂となり、いつの間にか天王山の山麓の空気の中に入る。大きな石垣に見とれながら進むと、品のいいトンネルがあらわれた。おや、と思って近づくと、ブロンズのプレートに「大山崎山荘」の文字。専用のトンネルだ。何故か嬉しくなって、思わず写真に撮った。

 トンネルを抜けてしばらく進むと、小さな赤い屋根付きの塀と門。それが思いのほか低く、その低さから童話的世界が広がっていくようだ。

 門を入って広場を進むと、イギリス風山荘の建物があった。じっと見ていて飽きない建物だ。ここは美術館の名が示すように、美術品を収蔵展示する館である前に、大山崎山荘という建物そのものが、観賞の対象としてあるようだ。建築の知識はないにしても、物として、風景として見ていて飽きない。急勾配の屋根と高い煙突が特徴で、それがいくつか複雑に組合わさって、その組合わせの流れが気持いい。この山麓の空気の中に、うまい具合に収まっている。

 館内にはまた一段と濃密な空間が広がっていた。壁といい柱といい窓といい、念入りに吟味された造作に、しばらく見とれる。一つ一つ大事に造られて、長い間使われながら残されてきたという時間の遠近法のようなものが、ひっそりと輝いている。ひっそりだけど、鋭い輝きだ。

 そうやって建物を見ながら部屋を進むと、いつの間にか展示が始っていた。物が陶芸品なので、こういう建物の中に並んでいても、すんなり収まっている。「展示」ということにことさら気がつかない。

 もともと美術館として建てたものではないので、絵をたくさん展示するには無理がある。でも陶芸品なら展示ケースも家具として溶け込みやすく、違和感はない。並ぶのは河井寛次郎、濱田庄司、バーナード・リーチなどが中心で、壺や皿や鉢などいろいろ。陶芸の、とくに釉薬による絵つけなどは、瞬間的な迷いのない筆致が命なので、モダンなデザインの中にも和風の感覚が発散されている。


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