さて、才能と財力と意志の力に恵まれていた加賀も、晩年は病に侵され、66歳で他界する。その直前に、事業の将来を考えて、ニッカウヰスキーの所有株のほとんどを、信頼する山本爲三郎に譲り渡した。現在ニッカはアサヒビールの傘下に入っている。
その後この山荘は加賀の遺族の手を離れ、一時は高級レストランとなったりしながら所有権が転々として、次第に廃墟化したころ、再開発の波が押し寄せる。そこでやっとこの一帯で建物の保存運動が持ち上がり、最後は京都府の要請を受けたアサヒビールが美術館として活用することとなり、山本爲三郎のコレクションを中心とした展示を行っている。考えれば人と人との縁が最後に繋がって、奇跡的に残った美術館だと、関係者は述懐している。
(写真:川上尚見)
【アサヒビール大山崎山荘美術館】
〈住〉 京都府乙訓郡大山崎町銭原5-3 〈電〉075(957)3123(総合案内)
http://www.asahibeer-oyamazaki.com/
アサヒビール(当時の社長は樋口廣太郎)が1996年に開館、羽柴秀吉と明智光秀とが争った天王山の中腹に位置する美術館。実業家・加賀正太郎によって大正の初期から昭和の初期に住居として建てられた本館と、安藤忠雄が設計した新館「地中の宝石箱」からなる。本館は主に民藝運動を支援したアサヒビール初代社長・山本爲三郎収集の陶器を中心としたコレクション、新館にはモネの「睡蓮」などが展示されている。桜や睡蓮をはじめ、季節ごとの花々で飾られる庭園も見もの。周辺も緑が多く、南に桂川、宇治川、木津川が流れる。
〈開〉 10時~17時 *入館は16時30分まで
〈休〉 月曜(祝日の場合は翌日)、展示替え期間、年末年始 *11月中は全日開館
*平成22年7月20日(火)~年9月30日(木) は全館バリアフリー化の第一期工事のため全館休館(庭園を含む)
〈料〉
一般700円 高校・大学生500円 小・中学生無料
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