2024年4月28日(日)

Wedge REPORT

2010年8月3日

“凍結状態”にあった日米関係のカゲで、ここぞとばかりにチャンスを嗅ぎ取った中国。
今年の4月には、10隻もの艦艇に宮古海峡を通過させるなど、対日挑発を繰り返している。
これを見過ごすことは、日米そして中国、だれの利益にもならない。
日本人よ目を覚ませ、と、米国きっての対日同盟重視論者が呼びかける。
日米が堅固な同盟を保ってこそ、アジアの平和は保たれるのだ、と。

好機を嗅ぎ取った中国軍の艦隊行動

 日米関係は8カ月間以上にわたって、基本的に凍結状態にあった。残念なことに、世界はその間凍結していたわけではなく、先へ進んでいった。今の時代、同じ場所にとどまることは、後退することを意味する。

 日米両国は普天間基地移設問題に関する議論にすべての時間を割く羽目になり、それ以外の重要な問題に関心を向ける余裕が全くなかった。双方がミスを犯したとはいえ、ここでは、日本で事態が展開していく中で、何が米国人を混乱させたのか記しておきたい。まず、米国側は一度として、なぜ辺野古基地が受け入れられないのか説明されなかった。どうやら、辺野古への基地移設が受け入れられない理由は、移設合意をまとめたのが自民党である点にあったようだ。実際、私はある民主党議員からはっきりそう聞いた。

 次に、米国人にとっては、日本の首相が現行案に代わる選択肢を持たずに日米合意を破棄するということが、理解しかねることだった。

 第3に、首相が普天間問題について態度を表明する前に、日本から何人もの関係者がやってきて米国政府に接触しては、「鳩山由紀夫首相お墨付きの計画」なるものを持ち込んだ。ところが実際は、どれ一つとして首相の計画ではなかったようだ。日米共同声明が発表された今、いかなる代替案も真剣に検討されなかったことがいよいよはっきりした。時間と労力が浪費されたのである。

 第4に、私の知る限り、アジアの大半の国が日本政府に対して、日米関係の膠着状態を早急に解決するよう要請したにもかかわらず、その間、日本側には切迫感が一切感じられなかった。

 どれも孤立した世界の中で起きたことではない。実際、この膠着状態の背景にあるものは、示唆に富んでいる。鳩山氏が首相を辞任し、新内閣が発足した今、我々がひとところに立ちすくんでいた間に世界で何が起きたのか、しっかり検証すべき時だろう。中国は日米同盟を取り巻く冷え切った環境にチャンスを嗅ぎ取り、以前より大きな自信と押し出しをもって行動した。10年前、中国の指導者たちは不満をかこち、米国のおかげで、日本は再び台頭し、攻撃的な国になりかねないではないかと言っていたものだ。ところが今、中国政府は毎週のように、些細な行動から派手な行動まで、実に様々なやり方で日本政府の決意を試しているように見える。

 世界は、鳩山氏が胡錦濤・中国国家主席の隣に立ち、東アジア共同体の創設構想を表明する様子を目撃した。それは米国を含まない共同体構想であり、首相の意図は米国側に伝えられていなかった。そんなやり取りがあった後、我々は一体、中国側が日米同盟の状態についてどんなメッセージを読み取ったと考えるべきなのか。世界はまた、小沢一郎氏が600人もの随行員を引き連れ、中国共産党の指導部に表敬訪問した北京詣でを目撃した。これは中国の自尊心を満足させるものであり、共産党指導部を喜ばせたのは間違いあるまい。中国国民の心には、中華帝国全盛期の光景が浮かんだはずだ。

 続いて我々は今年4月、中国海軍の艦艇10隻が宮古海峡を通過するのを目にした。それも初めてのことではなかった。3月には中国海軍がそれより小規模な小型艦艇部隊を日本の近海に派出している。艦隊編成も興味深いもので、キロ級潜水艦(ロシアが開発した通常動力、静粛性を高めた艦)2隻と少なくとも2隻のロシア製ソブレメンヌイ級駆逐艦(艦齢は最も古いもので10年強と比較的新鋭。満載排水量約8000トン。イージス、ステルス能力はないが対空、対艦兵装は強力で、制海権確保の主役と目される)が含まれていた。

 こうした中国軍の艦隊行動は、中国が言うところの「第一列島線」を超えた初の大規模演習だった。これら展開の背後には、北京の長期的・野心的計画があるのであって思いつきによるものではない。中国自身の国防白書を読みさえすれば納得がいくだろう。
また、中国海軍の艦載ヘリコプターが海上自衛隊の艦艇に近づき、護衛艦「すずなみ」からわずか90メートルの至近距離まで接近したという報告もあった。そればかりか中国海軍は今、海上保安庁の測量船「昭洋」に国際水域から出ていくよう命じて、日本にさらなる屈辱を与えている。


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