2024年4月27日(土)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2017年6月28日

 「北朝鮮について不可能なことを考える」との題名の通り、極めて大胆な、しかし透徹した提言です。「不可能なこと」と言っても決して空想事ではありません。アリソンは、クリントン政権下で国防次官補を務めたこともあります。

 アリソンは、「中国が責任をもって金体制を除去し、北朝鮮を非核化し、中国に友好的な韓国政府の下に朝鮮半島を再統一するのであれば、米国はすべての在韓米軍基地を撤去し両国の軍事同盟を終了させることができるのではないか」と言います。北東アジアの構造を一挙にリセットする有益なシナリオです。死活的に重大な要素は非核化と同盟帰属の問題です。

 習近平の提案では基本的な問題は何も解決されません。そればかりか、米国と日韓を分断させることにもなりかねません。米国に対するICBM(大陸間弾道ミサイル)の脅威は緩和され、日韓に対する短距離、中距離ミサイルの脅威は何ら規制されないからです。また、金正恩の核保有はそのまま残ります。このような問題を見越してアリソンは大解決のシナリオに行き着いたのでしょう。

 この発想が動くためには一定の条件も必要となります。キューバ危機が成功したのは双方がギリギリまで追い込まれたことがあり、ケネディもフルシチョフも同様に合理主義者だったことがあります。更に北朝鮮問題の場合、中国という当事者が本当に信頼できる仲介役になるのかという問題もあります。

 トランプ政権には、安全保障について考える場合、マティスやマクマスターのような軍人だけしかおらず、主流の外交・安全保障専門家が全くいないのが気にかかります。アリソンのような大きな絵を日米等が議論していくことが重要です。両独統一問題は、最終的にはソ連がドイツ軍の兵力の削減、生物化学兵器の不保持、NPT(核不拡散条約)堅持と引き換えに、西独による東独の吸収合併とNATO残留を認めました。両独はベルリンの壁崩壊から1年を経ずして統一されました。両独と朝鮮半島では中国の存在など根本的な相違がありますが、統一問題は突然に且つ急速に展開する可能性を孕んでいます。

中国が米国に求める「新しい大国関係」

 論評が言及する東アジア安保枠組に関する中国の構想には注意を要します。中国の構想は習近平が述べてきたようにアジアの問題はアジアの特殊性の中でアジア人によって解決されるべきだというものです。また中国が米国に求める「新しい大国関係」にすり替わらないようにしなければなりません。他方、長期的に、またアリソン・シナリオの必要な部分として、何らかの枠組みが必要です。結局、今の六カ国協議参加国+モンゴルという北東アジアの枠組みを構築することが最善ではないでしょうか。

 日本の安全保障にとり、アリソン・シナリオは必ずしも悪いものではありません。日韓関係はもっと普通の二国間関係になるかもしれません。しかし、北朝鮮との国交正常化をどうするかという難しい課題はあります。今度は日本がフロント・ライン国家となるので、日米同盟とASEAN等アジアとの連携強化が一層重要となります。最重要なことは日本の安全保障と米国の安全保障をきちっと結び付けておくことです。

 韓国は、アリソン・シナリオについて、アチソン・ラインの再来等と複雑な反応を示すかもしれません。金正恩に対しては、まさにトランプの予見不可能性とも重なって、心理的な圧力となるのではないでしょうか。

  
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