中西部ではサービス業の求人多数あるが……
4月24日(日)。夕刻サンタフェから西に2時間くらい走ったニューメキシコのルート66旧道沿いの小都市アルバカーキーに到着。町を歩いているとスーパー、レストラン、モーテル、ガソリンスタンドなどで入口に張り紙をして求人しているのを見かけた。曰く「レジ係募集」「キッチン作業、ウェイトレス募集」「ベッドメーキング及び室内清掃員募集」などなど。そういえば中西部の小都市では頻繁にこうした求人広告が出されていることに改めて気づいた。
米国では過去数年失業率は低水準で推移しており、こうしたサービス業では人手不足なのであろう。張り紙の「アパート完備」「時給○○ドル保証」などの条件をみると労働力不足の深刻さがわかる。
他方でトランプ候補は雇用創出を訴えて支持を拡大していることに違和感を覚えた。全体的雇用統計によると完全雇用に近いのに労働者層の不満が大きいということは労働市場に重大なミスマッチが生じているということであろうか。新たな疑問が湧いてきた。
民間企業が運営する“女子矯正施設”
4月25日(月)。ニューメキシコ州西部の町McCartysからルート66旧道を走ること1時間余り。Grantsという田舎町の郊外で『New Mexico Women’s Correctional Facility』という看板を見かけた。新しくモダンな施設であり女子矯正施設という厳めしい名称と相まって興味を引かれた。
女子刑務所というイメージから懸け離れており鉄柵もそれほど高くない。一見すると大学の女子寮のような印象だ。早速正門から入り受付の警備員に「この施設は州政府が運営しているのか」と聞くと「州政府の委託により民間企業が運営を請け負っている」との回答。
いわゆるPFI(private finance initiative)方式で運営されている施設らしい。PFIとは公共施設などを民間企業に委託して民間企業が建設、維持管理、運営を行うプロジェクト手法である。米国では刑務所が不足しており他方で政府は財政難により近年ではPFI方式で運営されている刑務所もあると聞いたことがあった。
興味があったので「施設の運営について話を聞きたいので責任者に会いたい」と告げると近くの事務所に管理責任者がいると教えてくれたが道に迷って見つけられなかった。
町の博物館の管理人は元ウラン鉱山技術者
Grantsの中心部には公園と町役場(Town Hall)があり、公園の端に町立博物館
(Grants Museum)があった。日本でいうところの郷土資料館である。この町も名物はルート66遺産、即ち廃墟のモーテルとかガソリンスタンドだけだ。
博物館に入ると先客はおらず受付に老紳士が一人いるだけだ。彼はボランティアとして館内を案内しているという。老紳士はこの町の郊外にあったウラン鉱山の技術者として28年間働いたという。
1951年にウラン採掘が始まり1985年に閉山するまで町の経済を支えた。当時ウラン鉱山は米国のエネルギーと軍事力を支える花形産業であった。しかしオーストラリアやカナダの大規模鉱山との国際競争に敗れて閉山となりその後町の人口も急減してしまったとの説明。
博物館にはウラン鉱山関係の展示が多数あった。多数の鉱山労働者の写真があるが放射能対策の防護服や防護マスクを着用していない。普通の作業服とヘルメット姿だ。当時から発癌リスクがあるとは認識されていたが、科学的には喫煙よりもリスクは低いということで作業員は誰も気にしていなかったという。老紳士自身も特段ケアしていなかったが75歳になる現在でも健康体であるとのこと。数十年前まで米国でも労働環境はこんなレベルであったのかと驚いた。
女子刑務所は雇用創出に貢献
博物館の老紳士に郊外で見かけた女子矯正施設について尋ねたところ開口一番に「お陰様で地元に新たに数百人の雇用が生まれたよ」とコメント。ニューメキシコ州政府が民間の警備会社に委託して運営しており3カ所運営されており現在合計1000人以上が収容されている。
対象者は麻薬密売(drug trafficker)、万引き(shoplifter)等の軽犯罪者(light criminals)である。これらの犯罪者は年々急増しているが州政府の財政ではカバーできずPFI方式を採用することになった。州政府の決定を地元は雇用が創出されると大歓迎しているとのこと。
雇用創出は中西部では切実な課題なのであろうか。だとすればトランプ氏が強調する“製造業復活による偉大なアメリカの再生”はまっとうな政策理念に思えるが。
→(第15回後半へ続く)
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