2024年11月22日(金)

解体 ロシア外交

2017年8月8日

新たな制裁強化法、ロシアの対抗措置は限定的

 さて、話を、公式の米露首脳会談の方に戻そう。

 プーチンがロシアゲートへの関与を明確に否定し、トランプもそれを一応受け入れたということで、米露首脳会談の成果はロシアでは極めて好意的に受け止められた一方、米国ではトランプがプーチンにやり込められたとして厳しい反応が起きた。他方、ヨーロッパでは、トランプとプーチンが意気投合してしまうなど、米露首脳会談の展開では、米露によって新たな欧州の勢力地図が決められるような「第二のヤルタ会談」になることも危惧されたが、それは防がれ、安堵の空気が漂った。

 それでも、米露関係の実態は極めて厳しい状況にあり、上述の通り、米国でのロシアゲート問題の追及は強まるばかりである。とりわけ、トランプの長男ドナルド・トランプ・ジュニア氏が選挙中のロシア側との接触を明らかにしたことで、トランプ一族への風当たりはさらに深まった。

 そのような折に、対ロ制裁強化法(同法には、対イラン・北朝鮮の内容も含まれている)が米国与野党の広い賛同のもと、可決され、トランプは署名を強いられた。署名を拒否することもできたが、そうなれば当然、ロシアとの特別な関係をさらに疑われ、政権維持が極めて難しい状況になることは自明であったため、署名をせざるを得ない状況に追い込まれた。だが、同法が「制裁の緩和や解除には議会の事前審査が必要」と定めていることについて、大統領権限の制限は憲法違反だとし、「深刻な欠点がある」と批判し、「自分が主導した方がロシアとより良い関係が築ける」と悔しさをにじませながらも、「国の結束のために署名する」と苦渋の決断をしたことを隠さなかった。

 そして、この米国の新たな対露制裁強化法により、米露関係のさらなる悪化が懸念されている。

 実際、ロシアは同法への対抗措置として、9月1日までにロシアにいる米国の外交スタッフを755人減らすよう求めた。ただし、まず削減されるのは、現地採用職員、つまりロシア人職員であると見られているが、755人という人数は、要員の約2/3に相当するため、駐露米国大使館のパフォーマンスが著しく低下するのは免れない。

 だが、ロシアはそれ以上の対抗措置は取っていない。その背景には二つの理由がありそうだ。第一に、トランプへの配慮である。基本的にトランプ本人が対露関係改善を目指し、プーチンにも理解を示そうとしている中で、トランプを米国内で追い詰めることは得策ではないと考えたということがある。第二に、ロシアの内政問題への悪影響に対する懸念である。ロシア経済は、ウクライナ危機による欧米からの対露経済制裁と石油価格の低迷により厳しい状況にある。報復措置は諸刃の剣であり、例えばウクライナ危機による経済制裁に対するロシアによる欧米諸国に対する報復措置は、ロシアの経済にも直接的な打撃となっていた。今、さらなる経済的な打撃が広がれば、来年3月のロシア大統領選挙にも悪影響を及ぼすことが想定されるため、対抗措置を控えたということも確実にありそうだ。

 これらのことから、現状では米露関係は劇的には悪化しているようには見えない。


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