ポジティブな要素もないわけではないが……
しかし、ロシア周辺で緊張が高まっていることにもまた注意を払うべきだろう。
昨年7月に、NATOがロシアの脅威に対抗するために、バルト三国(エストニア、ラトビア、リトアニア)及びポーランドというロシアに近接するNATO加盟国に4大隊4000人を配備することが決定されてから、また今年6月に旧ユーゴスラヴィアのモンテネグロがNATOに正式加盟してから、ロシアとNATOの緊張はますます厳しいものとなってきている。ロシアは、ポーランドとリトアニアに囲まれた飛び地のカリーニングラードの軍備を強化する一方、今年7月末には中露海軍がカリーニングラードを中心としたバルト海で軍事演習を行うなど、様々な手段でNATOへのけん制を強めている。その合同軍事演習には、中国から海軍最新鋭のミサイル駆逐艦「合肥」やフリゲート艦「運城」などの艦隊も参加し、かなり大規模に対潜水艦作戦や防空の訓練などが行われた。
一方、米国側もロシアの動きを黙って見ているわけではない。米国のマイク・ペンス副大統領は7月末から8月初旬にかけて、バルト三国のエストニア、ジョージア、モンテネグロを歴訪し、各地でロシアと対抗するそれら諸国を支援する米国の姿勢を強調したのである。
ペンス氏は、エストニアへの訪問においては、リトアニア、ラトヴィアの首脳も交え、4カ国で首脳会談を行い、エストニアへのパトリオット・ミサイル配備の可能性について言及するなど、ロシアの脅威にさらされたバルト三国防衛への米国の強い意思を表明した。
同氏は、ジョージアへの訪問では、ロシアの影響下にある同国のアブハジア、南オセチア問題でロシアを激しく非難するとともに、米国のジョージアの領土保全への支持と強い連帯を表明した。また、同氏は、ジョージアで8月30日から2週間行われたジョージア軍と米軍の合同軍事演習の視察も行った。同演習には、英国、ドイツ、トルコ、ウクライナ、スロベニア、アルメニア、ジョージアの部隊、合計2800人が参加した。
また、NATOは2008年にジョージアのNATO加盟を推進していたが、同年8月のロシア・ジョージア戦争(グルジア紛争)により、その話は立ち消えとなっていた経緯があるが、改めてペンス氏は、米国はジョージアのNATO加盟申請を支持するとも述べた。その一方で、ペンス氏は翌日に予定されていたトランプによる対露制裁強化法の署名を前に、ロシアの態度変更が先決、としながらも「アメリカとロシア両国の関係が改善する可能性は依然としてある」とも語った。
歴訪の締めとなるモンテネグロへの訪問では、ペンス氏は昨年10月にNATO加盟を阻止するためにロシアがモンテネグロでクーデターを試みた疑惑についてロシアを非難し、ロシアの反対をはねのけてNATOに正式加盟をしたモンテネグロへの支援をロシアに見せつける意図があると考えられる。
このように、若干のポジティブな要素もある一方で、米露関係が極めて厳しい状況にあるのは間違いない。ロシアが制裁の報復措置を踏みとどまり、米国側も関係改善の可能性を否定していない一方、軍事的な緊張は明らかに高まっており、外交的にも双方の内政の問題も絡み合う中で「引けない」状況があり、融和の空気が醸成されることは極めて難しそうだ。8月は夏休みなどで外交の動きは少ないのが常だが、8月といえば、例年、ウクライナ東部の戦闘が悪化することも忘れられない。また、ロシアゲート問題で新たな展開がある可能性もある。そうなれば、米露関係はますます悪化する可能性も否めず、しばらくは厳しい緊張関係が続きそうである。
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