2024年12月27日(金)

チャイナ・ウォッチャーの視点

2010年9月1日

 「天安」沈没事件発生の当初、米韓両国はむしろ抑制的な姿勢に徹しながら、北朝鮮の最大の後援国である中国からの協力を取りつけて国連の枠組み内での問題の解決を図ろうとしていた。しかし、「事件に一切関与していない」とシラを切り通す北朝鮮と、態度を曖昧にしながら陰に陽に北朝鮮を庇おうとする中国側との連携プレイを前にして米韓の外交的努力が結果的に頓挫してしまった。「天安」沈没事件の解決が実質上、宙に浮いたままの状態で、米韓の苛立ちは募る一方である。

堪忍袋の緒が切れた米韓 対抗する中国

 こうした中で、やがて堪忍袋の緒が切れた米韓両国は、北朝鮮とその背後に控えている中国に対して圧力をかける方策に打って出た。その最初のステップとはすなわち、今年の7月25~28日に日本海で実施した米韓両国軍の合同訓練であった。中国の近海付近で行ったこの大規模な軍事演習は、北朝鮮を仮想敵としたものであると同時に、中国に対する軍事的示威の意味合いもあるはずである。

 その時から、中国側もさまざまな場面で米韓の動きに対する批判と反発を表明し、それに対抗するための解放軍の軍事演習を断行して対立の姿勢を強めた。

 だが、あたかも火に油を注ぐかのように、8月中旬になると、韓国国防省はとうとう、米韓両国が韓国海軍哨戒艦沈没事件への対抗措置となる合同軍事演習を9月初めに黄海で実施すると発表した。

 実は、黄海で行われる予定のこの軍事演習こそが、中国にとっての看過できない重大な問題なのである。東アジアの地図を拡げればすぐに分かるように、黄海という海は中国にとって実に重要な意味を持つ海域であるからだ。

 この海域は中国海軍が海洋に出るための玄関口の一つだけでなく、北京・天津などの中国の中心都市が黄海につながる渤海に近い地域にあるから、黄海が米国の海軍によって「荒らされる」ことは、中国の国防にとっての由々しき事態となるはずである。それは、たとえば日本の東京湾付近の太平洋海域で外国の海軍大規模な軍事演習が行われた場合、日本の受ける衝撃の大きさを想像すればよく分かることであろう。

激化する南シナ海での米中対立

 米国が中国との対決姿勢を強めたのは、実は「東北アジア地域」の黄海においてだけではない。南シナ海においても米国は動き始めた。去る8月11日、南シナ海の中国の海南島と西沙諸島を望むベトナム中部のダナン沖で、米国海軍とベトナム海軍が捜索救難などの合同訓練を実施したのである。

 ことの発端は、今年3月、中国を訪問した米国の国防関係の要人らに中国政府の要人が、南シナ海は中国の領土保全の「核心的利益」と表明したことにある。

 あたかも南シナ海を自国の「縄張り」にするかのような中国側の横暴さがアメリカの神経を大いに逆撫でした。今年の7月に、ベトナムのハノイで開催された東南アジア諸国連合(ASEAN)の関連会議で、クリントン米国務長官が「南シナ海の航行の自由は米国の国益であり、軍事的脅威に反対する」と明言したのは、まさに中国側の「核心的利益宣言」に対する米国流の反撃である。

不倶戴天の敵と組んだ米国

 その直後に実行されたのが上述の米国・ベトナム海軍の合同訓練であるから、それが中国に対抗するための米・越の連携行動であることは明らかであろう。かつてのベトナム戦争時代には不倶戴天の敵であった両国は、まさに「中国からの脅威」に対抗する形でふたたび手を組んだわけである。

 このようにして、今年の夏頃から、世界最大の軍事国であるアメリカは朝鮮半島周辺の海と南シナ海の2つの海域において、それぞれの然るべき相手と手を組んで、中国の海上拡張に対する封じ込めを始めた。それはもともと、東シナ海での拡張を図り、南シナ海を自国の内海にしようとする中国の覇権主義政策の招いた当然の結果であるが、中国側にしてみれば、今の情勢はまさに、米国を中心とする「反中国軍事同盟」が東の海と南の海の両方から中国に対する包囲網を形成しつつあるという深刻なものであろう。


新着記事

»もっと見る