20年ほど前から3D映像の研究を続け、万博や博物館などで展示上映される3D映像の製作にも携わってきた早稲田大学助教の河合隆史さんも、今回のアメリカでの3Dブームは、一過性のものには留まらないだろうと予測する。
「今回は過去のブームと違って、作り手側の3Dに対する理解度が見て取れます。たとえばデプス・スクリプト(奥行き台本)というものを用意して、どの場面でどの程度3D効果をつければ効果的かを、よく考えて作品を作っているようですね」
制作者側の意識が、過去とは一線を画しているわけだ。
たしかに、映画館で映画をよく見る人なら、ずいぶん前からハリウッド発の3D映画が増えてきたことに、気づいていただろう。実際、アメリカでは、すでにかなりの数の映画が3D化されている。
そのはじまりは、2005年に公開されたディズニー映画『チキンリトル』だった。これは、ディズニーがはじめて単独で手がけたCGアニメ作品で、その一部が3Dで上映されたのだ。
チキンリトルは、作品としての評価は芳しくなく、興行的にもぱっとしなかった。しかし、3D上映に限っては、割増料金を取ったにも拘わらず、観客動員が4倍近くになるという結果をもたらした。
この3D版の上映は、たまたま思いつきでやられたわけではなかった。当時、アメリカの映画業界を悩ませていた問題の打開策として、実験的に行われたものだった。
映画業界の苦境が拓いた3Dブーム
今世紀に入ってからしばらく、ケーブル・テレビ普及の影響なのか、ハリウッドの興行成績が振るわない時期が続いていた。
しかも時を同じくして、近い将来、大画面で音響効果も良いホームシアターや、ブルーレイなどの次世代DVD、高速ネットワークによる映画配信などの技術が実現すると、大いに期待されるようになっていた。
このままでは、観客の足はますます映画館から遠のくだろう。興行者たちの抱く危機感は大きくなっていた。
また同じ頃、映画製作者側も、ある悩みを抱えていた。それはデジタル革命の滞りだ。
デジタル技術の進歩は爆発的で、ほんの少し前には考えもしなかったことが、どんどん可能になっていく。その影響は、映画製作の現場にも、大きな変化をもたらしていた。
今世紀に入る頃には、フィルムに劣らぬどころか、フィルム以上の品質の映像が撮影できるビデオカメラが登場して、標準化されている。また、その映像データを自在にデジタル加工する技術が次々考案され、データを記録するメディアができたり、データをネットワークで送信することも可能になっていった。
これらのデジタル・システムが整ったことで、映像作品の製作プロセスも、劇的に変化している。たとえばその一端は、YouTubeにアップされている、ChromaKeyという動画からも窺い知ることができる。
これを見ると、今では『スター・ウォーズ』のような大作映画の壮大な場面だけでなく、テレビ番組の中の日常の何気ないシーンでも、役者はグリーンバックのセットで演技を行い、背景やエフェクトの大半は、後から合成していることがわかる。