背景が合成なのかロケなのかは、目の肥えた人なら解るのかも知れないが、筆者のような素人には、全く見わけがつかない。
映像製作システムのデジタル化が進むにつれて、かつては不可能だった映像を、より効率的に作る環境が整えられてきた。さらに映画に関わる全てのプロセスがデジタル化できれば、その恩恵ははかりしれない。
しかし、当時、それを妨げるボトルネックとなっていたのが、作品の上映を行う映画館だった。
完全にデジタルで作られた映画は、映画館の上映システムがデジタルならば、ディスクに記録して提供するか、通信で送ることもできる。
しかし、従来の上映システムしかない映画館には、手間とコストをかけて、デジタル・データをフィルムに焼き付けて納品しなければならない。
一方、興行主にとって、デジタル・システムの導入は、多額の設備投資が必要なわりに、コンテンツの品質が劇的に上がって、集客力が良くなるようなものではなかった。その上、観客数も減っているとなれば、設備投資に消極的にならざるを得ない。
この映画業界全体の問題について、2005年3月に、ジョージ・ルーカスや、ロバート・ゼメキス、ロバート・ロドリゲス、ランダル・クレイザー、そしてジェームズ・キャメロンらの大御所映画監督らが、打開策を検討するシンポジウムを開催した。
その結論が、デジタル3D映画こそ、興行主の重い腰を持ち上げてデジタル革命を推し進め、かつ、観客を映画館に呼び戻す起死回生の手段になるだろうという提案だった。
チキンリトルは、これを受けて3D上映され、期待通りの結果を示したわけだ。
ジェームズ・キャメロンが「そそのかし」の張本人
今にして思えば、この、デジタル3Dのアイデアは、キャメロン監督がまわりを「そそのかした」ものだったに違いない。
キャメロン監督は、タイタニックの成功後、次回作のアバターを、子どものころからの夢の実現として、3D作品にすると決めていた。
そして、3D撮影専用の両眼カメラや、役者の演技をモーション・キャプチャし、リアルタイムで背景も含めたCGを合成して3D表示するシステム、さらに2D映像を3Dに変換するポストプロダクションなど、3D映画を効率よく作る環境を創り上げていった。
キャメロン監督の3D映画に対する取り組みは、過去の誰よりも真剣で、用意周到に準備され、それだけ巨額の先行投資も行っていた。
しかし、いくら優れた3D映画を完成させても、それを上映できる映画館が少なくては、見る人も限られ、投資の回収もままならない。
そこで、キャメロン監督は、撮影のプロセスから、開発した使用機材の技術なども、多くの映画関係者に公開し、3D映画のすばらしさを説く講演を何度も行っていった。
デジタル3D映画こそが、映画の明るい未来だよと、業界全体に啓蒙活動を行い、技術のアドバイスも積極的にすることで、全米に3D映画の上映が可能な映画館を増やそうと考えたわけだ。