2024年11月22日(金)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2017年11月14日

 眼識にとんだ論評です。ポピュリズムへの対処には民主主義と資本主義(経済)の間の一層衡平な均衡が必要だと主張します。筆者は民主主義や資本主義に代わるものを求めている訳ではなく、「均衡」を求めています。ポピュリズムは世界が直面する問題ですが、この論評は多分に欧州特有の議論をしています。特にEU離脱問題で将来への展望を開けず苦悩する英国の状況が滲んでいるような気もします。なお筆者は現在ベルリンで研究中です。

 筆者は公私の境界線を引き直す、いわば「社会的市場経済」が必要だと主張します。政治家が大企業に再就職すること(ブレアやシュレーダー等のことか)やグーグル等への課税が低すぎると厳しく批判しているのは興味深いです。

 ポピュリズムは先進国病のようにも見えます。しかし冷戦の終了やグローバリゼーションの浸透がポピュリズムの背景にあるとすれば、今のアジアは大分状況が違います。アジアでは未だ冷戦の残滓が続きます。北朝鮮は核・ミサイル開発で地域の緊張を高め、中国は新しい覇権国として増大する力を投影し、アジアは欧州のように平和的とは言えません。しかし日本もポピュリズムに陥らないように注意していく必要があります。そのためには、①政治が国民の状況に敏感になること、②国民に将来のビジョンを与え目的の共有意識を提示すること、③雇用を大事にすることが重要ではないでしょうか。

 欧州では1970年代盛んにユーロ・ペシミズムということが言われました。今欧州は多くの重要な課題を抱えていますが、悲観的に過剰反応することも良くありません。冷戦の終了とグローバリゼーションは基本的に良いことだったことに議論の余地はありません。グローバリゼーションは、例えばアフリカを少なくともマクロ的に見れば裕福にしていますし、民主主義を広めることにも成功し、政権交代はより円滑に行われるようになっています。

 ポピュリズムが英国のEU離脱を押し進めました。大陸との関係1960年代やサッチャーの1980年代の昔からあった問題であり驚くべきことではありません。驚くべきは、あれ程巧みな政治力を持っていた英国が政策のマネジメントをひどく誤ったということではないでしょうか。政府の対応は冷静な判断よりも多分に衝動的でした。国民投票を武器に党内を纏めようとしたキャメロンの判断が甘かったのです。寧ろあの時保守党が分裂を選び、選挙をした方が余程英国民の長期的利益になったのではないでしょうか。フィナンシャル・タイムズ紙を始め多くの者がポピュリズムに負け悔しい思いをしていることに同情します。

  
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