2024年12月23日(月)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2017年10月27日

 仏ルモンド紙のカウフマン論説委員が、西側のリベラルな価値がトランプ、カチンスキー、オルバンの枢軸による攻撃に晒されていると警告する論説を9月22日付のニューヨーク・タイムズ紙に寄稿しています。要旨は次の通りです。

(iStock.com/TongRo Imag/michaklootwijk/Stocktrek Images)

 トランプ大統領が「ドリーマーズ」のためのプログラムを終了させることを表明した日、欧州司法裁判所は、ハンガリーとスロバキアの主張を斥け、欧州委員会は加盟国に所定の数の難民の受け入れを求める法的権限を有するとの判断を示した。これらの決定はともに西側のリベラルな価値に触れるものである。それは西側社会を二つの陣営に区分する。

 一方の陣営はトランプ大統領、ポーランドのカチンスキー「法と正義党」党首、ハンガリーのオルバン首相によって体現される非リベラルの枢軸である。この枢軸は移民、開かれた国境、多元文化主義、多国間主義の攻撃に乗り出している。これらは、今やリベラルな秩序を損ない異なる価値体系を持ち込むための整然とし決然とした努力のように見える。

 この展開に警戒を強め、もう一つの枢軸が姿を現した。メルケル首相とマクロン大統領である。両者は、トランプとカチンスキーのやっていることは単なるポピュリズムを超えるものだと確信している。主権と単独主義に基づく冷酷なトランプの国連演説は彼等の疑惑を深めただけであった。

 トランプが7月のG20サミットに際しワルシャワを訪問先に選んだのは偶然ではない。難民問題と法の支配の問題でEUと衝突していたポーランドの首脳部にとって、この訪問は思わぬ幸運であった。その数日前、党大会でカチンスキーは「我々は難民を欧州に招いたわけではない」とした上で、「我々にはNOという道徳的権利がある;ポーランド人が最初にナチに立ち向かったことが想起されるべきで、我々はドイツに対する賠償の要求を放棄してはいない」と難民問題に引っかけて解決済みの微妙な問題を持ち出した。

 ハンガリー政府が同国生まれのユダヤ系米国人ジョージ・ソロスの写真付きの反移民の掲示板を街角のあちこちに立てた。ポーランドの国防相が「欧州の記憶」からポーランド人の惨禍を「消し去る」よう試みているとドイツとフランスを非難した時、彼は和解というEUが拠って立つ基礎を覆そうとした。

 マクロンは、8月の演説で移民を歓迎することは「人の義務であり、品格と我々の信念に対する忠誠の問題だ」と述べた。メルケルとマクロンは非リベラルの枢軸との違いを強調するようになった。マクロンはアテネで演説した際、欧州は「人間性、法、自由、正義という理念を共に抱き続ける最後の避難港」だと述べた。

 マクロンとメルケルは、トランプの歪んだ見解に対しては限られた梃しか持ち合わせていないが、ポーランドとハンガリーに対しては違う。両国はEUのメンバーであり、これらの価値の最後の避難港の一部である。もし、旧世界が啓蒙主義の遺産を防衛することを邪魔しないでいてくれれば、旧世界は団結してそれを成し遂げることが出来る。

出典:Sylvie Kauffmann ‘The West’s Schism Over Liberal Values’ (New York Times, September 22, 2017)
https://www.nytimes.com/2017/09/22/opinion/west-liberal-values.html?_r=0


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