2024年11月25日(月)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2017年11月17日

 ISの拠点ラッカの解放を受けて、10月19日付の英フィナンシャル・タイムズ紙の社説は、ISの敗北がアサド政権とイランの勝利となる危険を指摘しています。社説の要旨は以下の通りです。

(iStock.com/Liquid_Light/okfoto/Pavol Klimek/koya79/ LeshkaSmok)

 米国が支援するシリア民主軍によるISの首都ラッカの解放は重要な勝利に違いない。しかし、米国とその同盟諸国が次にどうするかを早急に決めない限り、それは割に合わない勝利となる。

 最後の都市部の足掛かりを失い、ISはイラク国境の荒涼たる油田地帯に押しやられている。問題は、相互に異なる考えを有する勢力が統一戦線を構築して、今後の混乱した状況下でISが再び集結することを防ぎ得るかである。

 現時点では幾つかの危険がある。1つは、ISは領域としては縮小しつつあるが、イデオロギーの力としては敗北した状況にはないことである。更に、資源と領域を失ったことで、ISはその管理の重荷から解放され、効率的な奇襲攻撃に特化し、西側諸国のソフト・ターゲットに焦点を絞ることが可能になる。

 2番目の危険は、ラッカを含め領域を巡って戦闘が再燃する危険である。

 トランプ大統領はイランに狙いを定めたが、ロシアと共にアサド政権を支えるイランはイラクおよびシリアで駒を進めつつある。紙の上では米国の主たる同盟国はトルコである。しかし、トルコのエルドアン大統領は今月ワシントンではなく、テヘランを訪問した。米国の予備の同盟国であり、ラッカ奪還の立役者はシリアのクルドであるが、彼等はトルコの敵である。両者に挟まれて、米国はどちらの側の主義主張にも政治的なコミットメントはしていない。

 ISは目下のところ敗走しつつあるかも知れない。しかし、その母体となったアルカイダは2008年には今日のISが置かれた立場よりも遥かに劣悪であった。それが、スンニ派を阻害する愚かなイラクの政策のお蔭で、たった3年でISの衣を着て復活した。もし、制圧したシリアの領域を、どうやってスンニ派を抱き込む形で統治していくのか早急に計画を立てなければ、再び同じことが起こるに違いない。そして、米国と同盟国がより戦略的に考えなければ、ISの敗北は間もなくアサド政権とその支援者であるイランの勝利となるであろう。

出典:Financial Times ‘The defeat of Isis is not enough to save Raqqa’ (October 19, 2017)
https://www.ft.com/content/f280bd88-b3fe-11e7-a398-73d59db9e399


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