10月17日、米軍に支援されるシリア民主軍が、4カ月の戦闘の後、ラッカの解放に成功しました。今後、ISの指導者バグダディの発見と拘束、その他戦闘員の制圧に向けての作戦が続きますが、今回は重要な勝利です。
この論説は2つの課題を指摘しています。1つは、ISは崩壊しても、そのイデオロギーは簡単には消滅しないという危険です。それはそうですが、ISがいうところの国家を失えば、ジハーディストに対するその求心力は大きく下がることが期待されます。そのために、米国はじめ有志連合は戦って来た筈です。
2つ目は、今後のシリア情勢の安定化の問題です。それは適切な問題提起ですが、それに対する適切な答えはなかなか出て来ないでしょう。「米国と同盟国がより戦略的に考えなければ、ISの敗北は間もなくアサド政権とその支援者であるイランの勝利となるであろう」と論説はいいますが、恐らく、その予測通りとなるのでしょう。
結局、米国は、アサドをとるかISをとるかという不可能な選択を迫られる状況に追い込まれました。反体制派に訓練と助言を与えて育成する目論見は巧く行かず、クルドを頼ってISを打破することを優先することとなりました。その間、ロシアとイランに支援されるアサド政権は昨年12月にアレッポから反体制派を駆逐したのをはじめ、勢いを盛り返しシリア西部を支配下に置くこととなりました。アサドを追放して国内の和解の上に新たな政治体制を構築することは最早夢に過ぎません。
トランプはISを叩き潰すと公約しましたが、その公約が果たされた現在、米国は何時まで軍事的にシリアにとどまるのかの問題があるでしょう。現在、米国は千数百名の兵員を派遣しています。今後、シリア民主軍とアサド政権軍がともにISを追って油田地帯であるデリゾールに進軍するらしいですが、双方が衝突する可能性があります。双方はクルドがその自治権の確立を目指すトルコ国境沿いの地域の支配を巡って衝突する可能性もあるでしょう。トランプがイランを敵視する政策を採用したとしても、シリアにおけるイランの脅威は無視出来ません。クルドを巡ってはトルコと対立する関係にある上に、二国間関係も緊張しており、トルコの協力も期待できません。そういう状況でトランプ政権がどう動くかは予測し難いものです。
シリア情勢がアサド政権とイランの勝利となるにしても、トランプ政権に出来そうなことは2つあります。1つはクルドを見捨てないことです。クルドの協力があってこそ、成し得たISに対する勝利であり、道義的な借りがある筈です。クルドも何の戦利品を得ることなく黙っている筈もないでしょう。難しいことですが、クルドが求める連邦体制の下での自治権の拡大に協力すると良いでしょう。もう1つ、イスラエルの安全保障に対する協力があります。イランの勢力がシリアに浸透することはイスラエルにとって脅威に違いありません。シリア国内のイランに支援される勢力の中には、次の目標はゴラン高原の解放だという向きもある由です。
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