2024年12月8日(日)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2017年5月31日

 フィナンシャル・タイムズ紙コラムニストのガードナーが、5月3日付け同紙掲載の論説で、対IS作戦は成功間近だが、その後に来るのは、主要勢力による大混乱であろう、と指摘しています。要旨は次の通りです。

(iStock)

 ISの領域縮小と都市部の拠点の奪還を勝利と定義するならば、対ISIS作戦は成功間近である。

 米国の支援を受けたイラク軍は、2014年にISに占領されたモスルの大部分を奪還した。シリア北東部のラッカ(ISの首都)は、米国が支援するクルド人勢力に囲まれている。トルコとシリア自由軍は2月、シリアのクルド人を阻止するため、ISが占領していたアルバーブを奪取した。

 とりあえず、ISは「プロト国家」から地域的反乱と国際テロ組織へと後退すると判断できる。その後は対立勢力間での乱戦で、絶え間ない地政学的衝突による領域の奪い合いとなると見られる。

 こうした不吉な展開は、別の見方をすると、シリア、イラク、中東の大部分において、さらに気がかりである。主要勢力は、中間派をほぼ全て取り除こうとする政策を追求している。中東では、あまりに多くの勢力に攻撃されるので中間派は存続できない。

 シリアでは、アサドに対する反乱軍の中間派が排除された。米国はシリア内戦を、対IS戦争と米国のイランへの敵意の観点からのみ見ている。ロシアは、自国が世界および地域の勢力として復帰することを最優先しているように見える。トルコは、シリアのクルド人による事実上の国家の強化を阻止することに集中している。イランは、レバノンのヒズボラをモデルに、シリアとイラクで強力な民兵を構築している。

 イラクでは、イランが支援するシーア派民兵組織がモスルの西に大きな兵力を展開させている。イラク軍と米軍特殊部隊への支援が名目だが、ISとアルカイダのスンニ派至上主義者たちに格好のプロパガンダの材料を与えることになっている。他の場所でも事態は全く良くない。

 エジプトのシシとトルコのエルドアンは、しきりに政治的中間派を除去し投獄している。サウジは、ワッハーブ派のイデオロギーのみを許し、中間派が存在したことはない。イスラエルは極右に傾き、パレスチナ国家が建設されるかもしれない場所に入植を続けている。

 しかし、中東の安定の保証者としての独裁者という誘惑的な古いモデルが回帰している。最近のサリン攻撃に対するトランプの軍事的対応の後ですら、中露はもとより欧米でもアサドが最もマシな選択肢と見られている。しかし、アサドの支配領域でも、ならず者、盗賊、地方の軍閥が力を持つようになり、体制の飛び地ラタキアでは「もはや誰が力を握っているのか分からない。アサドが何らかの権力を本当に持っているのかも分からない」との声が出ている。

出典:David Gardner,‘If Isis is defeated, prepare for another round of catastrophes’(Financial Times, May 3, 2017)
https://www.ft.com/content/ee81cf10-2f47-11e7-9555-23ef563ecf9a


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