ガードナーは、中東では中間派は内乱では存続できないと言っていますが、事実でしょう。
シリアで中間派(穏健派反政府グループ)が弱体化した大きな理由は、米国が本腰を入れて支援しなかったためと見られます。米国が本格支援に踏み切らなかったのは、(1)ISとの戦いを優先させていたこと、(2)アフガニスタン、イラクでの経験から、中東への深入りを嫌ったこと、が理由と考えられます。(2)については、オバマが、アサドが化学兵器を使用することをレッドラインと言っておきながら、実際の使用に際し軍事力を行使しなかったのも、基本的には中東への深入りを嫌ったためと言えるでしょう。
イラクでは、イランが支援するシーア派民兵組織に対するスンニ派国民の反発が高まっていますが、そもそもイラクを引き裂いてきたシーア派とスンニ派の対立の中で、中間派が存在できるかという問題があります。かつては、例えばオスマントルコでは、シーア派とスンニ派は平和的に共存していましたが、いったん宗派的対立が深まると、その溝を埋めることは容易ではありません。
独裁者が安定を保証するというモデル
ガードナーは、中東では独裁者が安定を保証するというモデルがあると言っています。これは中東に限りませんが、中東についてはエジプトとサウジはモデルに当てはまります。ガードナーはトルコとイスラエルも同列に論じていますが、エルドアンもネタニヤフも異論を許そうとしないという点では独裁的と言えますが、エジプト、サウジと同じとは言えません。
ガードナーは、たとえISがモスルとラッカを失い、「プロト国家」でなくなっても、シリア、イラクでの地政学的衝突は続くだろうと述べていますが、その見通しは正しいと思います。シリアではそもそも少数派のアラウィ派が支配する限り、独裁体制を取らざるを得ません。シリアでISが勢力を失っても、アサドが以前のように全シリアを支配することはできないでしょう。シリアは実質上分割されざるを得ません。ガードナーは、アサド体制の飛び地のラタキアでアサドの支配体制にひびが入りつつあると言っています。アサドは全シリアを支配できないのみならず、支配地域でも騒乱が起こり得ます。
ISが支配領域を失った後は大混乱になるとの、ガードナーの予測は、あながち誇張とは言い切れません。
▲「WEDGE Infinity」の新着記事などをお届けしています。