出合いは偶然だった。16年夏、友人の紹介で初めて秋月を訪れたとき、独特の雰囲気に一目で魅了されたという。
「秋月は春のお花見と秋の紅葉が有名なのですが、これまで福岡に住んでいても、来る機会はありませんでした。自分の足で秋月の町を歩いてみると、静かな小道があり、木々の緑や小鳥のさえずり、地元の人々の温かさがあり、古い街並みがそのまま保存されている。こんな素敵なところで宿をやってみたいと思ったのです」
秋月にはレストランやカフェ、雑貨を扱う店などはあるが、旅館はわずかしかないので、これまでは日帰りする人が多かった。そうしたこともあり、宿を作れないかと思っていたところ、偶然、古民家が売りに出されていることを知ったという。邢さんは「庭に竹林があり、リラックスできる雰囲気だったことが気に入って」早速、この物件を購入。内装などに手を入れて、17年12月にオープンさせた。
ホームページやbooking.comなどを通して予約を受け付けたところ、日本人を始め、中国や韓国からのお客様がやってくるようになった。年齢は40代以上の働き盛りの人が多いという。
客室は3部屋。「晴耕雨読」(田園で世間のわずらわしさを離れて、心おだやかに過ごすこと)という四字熟語から取って、部屋にはそれぞれ「晴」(和室)、「耕」(洋室)、「雨読」(メゾネット和洋室)と名づけた。全室を貸し切ると10名で宿泊でき、友人同士、大人数の家族連れも利用できる。
「ここではとにかく、ゆっくり、のんびりしていただきたいですね。竹林のあるデッキで家族で談笑したり、自然の空気を思い切り吸ったり、日々の疲れを癒していただけたらと思います。時間を気にして観光地をあくせく見て歩くのではなく、まるで故郷に帰ったような温かい気持ちになっていただけたるといいですね。こういう雰囲気を求めている中国人富裕層はとても多いと思います」
部屋にはテレビや余計な家具は一切ない。1階の玄関を入ると喫茶コーナーがあり、そこでは福岡県糸島で手作りしたシナモンティーを飲むことができるというこだわりもある。邢さんは「私も、この旅館も、こころよく受け入れてくれた秋月の方々に感謝しています」と語る。
同じ秋月でウィークエンド珈琲ギャラリー『水の音 土の音』を経営する寺崎富繁さんも「この町の雰囲気が好きで、わざわざ訪れてきてくれる外国人の方が大勢います。暖炉を囲んでおしゃべりしたり、この町の静かな雰囲気を楽しんでくださっていますね」という。