井藤氏のコレクションはヨーロッパ近代絵画が中心だが、その先はピカソまで、と決めていた。このピカソまでというところがじつに具体的で、同感である。ピカソはそれまでの絵画の様式を壊した人だが、その絵はどんなに壊れても人物の描写であって、まったくの抽象絵画は描いていない。
そのピカソを過ぎると、たしかに絵はだんだん素直ではなくなり、「描写」という鑑賞の入口はなくなって、自己主張ばかりが強く、理屈っぽくなってくる。目に快い順目〔じゅんめ〕の鑑賞ではなく、違和感の強い逆目〔さかめ〕の鑑賞に変ってくる。観客が被虐的な立場に立たされる、ということかもしれない。絵をゆっくり眺めて愛でるという関係からは、遠ざかってしまうのだ。
でも井藤氏が「ピカソまで」と決めたのはそういう理屈からではなくて、ただ日本人が親しみやすい絵ということで、印象派を中心のものとしたのだ。あくまで人々の心を癒すための絵画、その美術館であるのだから、その「ピカソまで」という限界の切り方は、じつに正しく、いさぎよいと思うのである。
(写真:川上尚見)
【ひろしま美術館】
〈住〉 広島市中区基町3-2 〈電〉082(223)2530
http://www.hiroshima-museum.jp/
1978年11月3日に開館。広島銀行創業100周年の記念事業として、当時、頭取だった井藤勲雄の指揮の下に設立された。「愛とやすらぎのために」をテーマに、原爆犠牲者への鎮魂の祈りと平和への願いが込められている。原爆ドームをイメージしたという丸い屋根のメインホールは4つの展示室から成り、19世紀半ばのロマン派からエコール・ド・パリまでの洋画約90点が常設展示されている。さらに別館にも4つの展示室があり、日本の近代洋画約90点が展示されるほか、特別展の展示スペースとして活用される。
〈開〉 9時~17時 *入館は16時30分まで
〈休〉 年末年始(12月29日〜1月2日)
〈料〉 一般1,000円 ※特別展開催時は各展覧会ごとに設定
■「WEDGE Infinity」のメルマガを受け取る(=isMedia会員登録)
週に一度、「最新記事」や「編集部のおすすめ記事」等、旬な情報をお届けいたします。