2024年5月13日(月)

Wedge REPORT

2010年12月14日

 法的根拠を求められる可能性があるにもかかわらず、条例案提出側は、なぜそれを武器に闘い通さなかったのか。ある埼玉県議会関係者によると、「(防災ヘリ)有料化条例案は、自民党内でも最後まで懸念が噴出していた。純粋に内容について疑問を抱いているのなら仕方ないが、実は反対した人々の中には、今回防災ヘリ有料化条例案を提出した議員団から、過去に別の条例案を反対された経験がある議員もいて、その仕返しとして反対を貫いたのでは」という話もあった。同県議会では「そのような事実は把握していない」(政策調査課担当者)とのことだが、田村議員らが条例成立の武器となる法的根拠をもちださなかったのは、内容とは直接関係のない何らかの力学が働いていたのでは、と想像せざるを得ない。

無防備な登山者に警鐘を

 消防庁統計によると、消防防災ヘリの出動件数は平成21年で7165件、10年前と比較して2.4倍となっている。山岳遭難事故に詳しいライターの羽根田治氏は、「(防災ヘリを)何が何でも有料化、というのは乱暴な議論だが、これだけ事故が増えている以上、何らかの措置が必要であることは間違いない」と述べる。気軽に、無防備に、山に入る人々に警鐘を鳴らし、意識を改革してもらうにも、実費負担のこの条例案は有効ではなかったのだろうか。

 残念ながら今回の埼玉県では、前例がないということに尻込みし、費用請求における法的根拠を求めることができる可能性、航空法・消防法などに抵触しない仕組みづくりの見通しがある程度立っていたにもかかわらず、政治的力学に阻まれ、大きな一歩を踏み出すことができなかった。山岳遭難事故を減らすためにも、他県も含めて引き続き議論を深め、条例の制定を目指してほしい。
 

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