2024年4月20日(土)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2018年2月2日

 ムハンマド・ビン・サルマン皇太子(通称MBS)が行っている改革はサウジが必要としているものです。

 経済政策は、シェールオイルの台頭で世界の石油市場が変わり、以前のような油価の回復が期待できないことを大前提としています。脱石油を目指して経済の多角化を図るとともに、財政ひっ迫対策として付加価値税の導入、ガソリンなどに対する補助金の削減を行っています。経済の多角化は以前から試みられてきましたが、今回は抜本的な改革です。

 税の徴収と補助金の削減は、これまでサウジ社会の安定の基礎となってきたサウド家と国民との社会契約、すなわち政府が全面的な福祉政策を実施する一方で、国民は政府の政策に無条件で従うという暗黙の約束を崩すものであり、サウジの統治にとって革命的なことです。

 しかし、それが可能なのは、MBSがこれまでのワッハーブ派の僧侶階級による時代錯誤的な厳しい社会規制を緩め始め、サウジ社会の近代化に着手したためです。これは人口の3分の2を占める30歳以下の若年層に歓迎されており、これまでラクダの歩みのペースでしか改革ができなかったサウジ社会を大きく変えようとしています。

 MBSが目指している改革は、「ビジョン2030」に明らかなとおり、単なる経済改革ではなく、社会改革でもあります。

 上記社説が指摘するように、これらの改革の道のりは長く、困難なものです。しかし、MBSが着手した改革は後戻りはしないでしょう。宗教警察が再び市民生活に介入し、女性の運転や映画の上映が再び禁止されることはないでしょう。MBSの目指す改革が100%実現されなくても、新しいサウジが誕生しつつあるのです。

 社説は、MBSの政策の足を引っ張るものとして、外交政策とMBS自身の贅沢を指摘しています。

 外交に関しては、確かにイエメン内戦への軍事介入は、効果を上げていないのみならず、大きな財政負担となっています。その上、サウジによるイエメンの封鎖がイエメン国民に飢餓と疫病の蔓延という悲劇をもたらしており、国際社会の非難を浴びています。しかし、サウジとしては、お膝元のイエメンがイランの勢力範囲となることは許しがたいでしょう。イエメンへの軍事介入は容易には止められないと見るべきです。

 もう一つのMBS自身の贅沢については、彼個人の問題であるとともに、サウジ王族の問題でもあります。政府が国民に新しい税など財政的負担を求めるのであれば、多くの特権を持った裕福な王族にいかなる犠牲を求めるかという問題があります。

 王族が目に見えた犠牲を払わない限り、国民は新しい負担を負うのを不公平と感じるでしょう。MBS自身、自ら範を垂れる必要があります。さもなければ改革の努力に水をさしかねず、場合によっては王族の反乱すらあり得ます。

  
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