2024年12月7日(土)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2018年1月18日

 トランプ大統領がエルサレムをイスラエルの首都と認定したことにつき、フィナンシャル・タイムズ紙は12月7日付けで「トランプのエルサレムについての危険な決定、聖地のイスラエル首都への認定は無分別な挑発行為」と題する社説を掲載、強く批判しています。要旨は次の通りです。

(iStock.com/gorsh13/RomoloTavani/koya79/LoveTheWind)

 トランプ大統領による、エルサレムのイスラエルの首都認定、米大使館の同地への移転推進は、外交上の蛮行である。もっと不思議なのは、それにより利益を得る者は誰もいない。和平に関心のある者にも、トランプ自身にさえも、利益にならない。

 トランプは、地域で最も緊密な同盟者を含め、ほぼすべての人を彼への反対で団結させ、イスラム教徒の怒りを挑発し、過激主義者を刺激し、またもや米国の世界における地位を低下させた。少数の反対意見はあろうが、イスラエルの利益にも役立っていない。

 エルサレムは、1947年の国連による分割決議以来、中東和平努力の中心的課題だった。エルサレムの地位の機微さが、国連にエルサレムをユダヤ国家とは別の「存在(entity)」とさせた。イスラエルは常にエルサレムを首都と主張してきたが、それを認めた国は無い。

 これには大きな理由があり、米議会によるエルサレムの首都認定と米大使館の移転を促す1995年の法律を尊重することを、歴代米大統領は避けてきた。イスラエルの主張を認めることは、占領されている東エルサレムを首都とすることを望むパレスチナ人の希望を打ち砕き、エルサレムの最終的地位は交渉によって決せられるとする1993年のオスロ合意を反故にする。反イスラエル感情が比較的抑制されている時期に、反イスラエルでイスラム教徒を団結させることにもなる。

 トランプはこの点につき明確に警告を受けていた。トルコはイスラエルとの関係断絶を示唆している。PLOの交渉担当者Saeb Erekatは、米国がこの動きを進めるようなことがあれば、米国は「公正で永続する和平の達成に向けたいかなるイニシアティブにおけるいかなる役割」をも果たす資格を失う、と言っている。ガザ地区を支配するハマスは、新たなインティファーダを示唆している。ヨルダンのアブドラ国王も、エルサレムをイスラエルの首都と認めれば、テロリストが彼らのイデオロギーを拡散することを可能にすると警告していた。

 本件は、トランプが地域での協力者に選んだサウジの状況を複雑にするという点でも奇妙なことだ。サウジは本件には強く反対している。サウド家は単なる王族ではなく、スンニ派イスラムのリーダーを自任している。エルサレムのアル・アクサ・モスクは、メッカ、メディナのモスクに続く、イスラム教の第三の聖地である。

 本件は、サウジ、特にムハンマド・ビン・サルマン皇太子への打撃になる。

 イスラエル・パレスチナ紛争の中心的課題で一方の側に立つことで、トランプは、米国が公正な仲介者として振る舞い得るとの考えを全て吹き飛ばしてしまった。エルサレムの地位は常に時限爆弾であった。米大統領が点火してしまったのではないか。

出典:‘Trump’s dangerous decision on Jerusalem’(Financial Times, December 7, 2017)
https://www.ft.com/content/17db46fc-da79-11e7-a039-c64b1c09b482


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