2024年12月14日(土)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2018年1月9日

 エコノミスト誌が11月30日付で「方向違いのミサイル:トルコのロシアとの20億ドルの兵器取引は障害、制裁の可能性に直面する」との解説記事を掲載しています。記事の概要は次の通りです。

(iStock.com/Sheng Li/neyro2008/Katsapura/d1sk)

 NATO高官には悪い冗談のように見えただろう。この秋、トルコの国営通信社が、ロシアから購入するS-400防空ミサイルシステムの情報を公表した。400kmの射程で敵の戦闘機やミサイルを打ち落とす能力など、このシステムの優位性を述べた後、情報はこのシステムが撃墜しうる航空機の例を挙げた。すべてが米国の航空機であった。

 トルコの同盟国はこんな話を無視してきたが、今やミサイル取引を不安な気持ちでみている。NATO高官は、エルドアン政権がどこで武器を買おうが自由と言いつつ、ロシアから買うことには批判的である。S-400はNATOの防空システムと相互運用性がない。NATO高官は10月15日、もしトルコが購入すれば「問題が生じる」、トルコにロシアのミサイルがあれば、トルコに配備される同盟の航空機に問題を提起する、と警告した。トルコの国防大臣は11月11日、購入は合意済みだと述べた。

 この取引はまた、米国の対ロ制裁に引っ掛かる危険がある。米国務省は10月ロシアから軍装備を買う国家の政府を罰する権利を留保すると声明した。ブラックリストにはS-400の製造会社も載っている。国家は免除を請求しうるが、トルコの人権状況、米・トルコ関係の緊張はトルコに不利に働く。トルコ警察が米領事館の現地職員を逮捕した後、米国は査証発給事務をトルコ全土でやめた。禁止はその後緩和されたが、関係はまだ悪い。

 トルコ・NATO関係は緊張している。11月、トルコは、ノルウェーのNATO演習からその兵士を撤収した。準備された「敵のチャート(図表)」に、エルドアン、それに「建国の父」ケマル・アタテュルクの名前があった。NATOはトルコに謝罪したが、トルコは徹底した調査を求めている。トルコの超国家主義者やイスラム主義メディアはNATO脱退を主張している。

 米高官はトルコの防空のために最善なのは、パトリオットシステムを買うことだと言ってきた。しかし、価格が高すぎ、トルコは、米国はロシアよりも技術移転をしないと考えている。それに米国でのエルドアンの評判は悪く、議会が邪魔しかねない。

 今のところトルコはS-400が最善と言っている。トルコは20億ドルで4つのミサイル群を買うが、S-400はNATOのレーダーネットワークにつなげられないので、4つの群ではトルコの空域の一部しかカバーできない。エルドアンのS-400購入の熱意は、国防よりも昨年のクーデタの繰り返しへの恐れであるという指摘もある。クーデタの時、F-16戦闘機がアンカラのエルドアンの宮殿を攻撃した。

 別の障害も出て来ている。エルドアン政府はS-400の一部をトルコで生産することをロシアに要求している。しかし、プーチンは機微な軍事技術を渡したくない。彼はミサイル取引がトルコと西側を疎遠にすることを希望しているが、同時にNATO加盟国と機密を共有することには用心深くなっている。したがって、取引は未だ駄目になりうる。

出典:‘Misguided missiles: Turkey’s $2bn arms deal with Russia faces hurdles, and possible sanctions’(Economist, November 30, 2017)
https://www.economist.com/news/europe/21731832-vladimir-putin-wants-create-rift-within-nato-does-he-really-want-hand-russian


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