「執行の検討」にはさまざまな問題
オウム真理教元幹部らの裁判に話を戻す。一連の事件で、起訴されたのは192人。そのうち13人が死刑を言い渡され、無期懲役は5人。全面無罪だったのはわずか2人だったという。
オウム裁判終結を受けて1月20日の各紙は、13人の死刑確定者の執行について法務省が検討を始めるという記事を掲載した。
刑事訴訟法によると、死刑確定後6カ月以内に執行しなければならないと定められている。しかし、実際は執行までには何年も経過するケースがほとんどだ。また、共犯者が逃走中の場合、逮捕、起訴されてその裁判が始まったのち、確定者が証人として出廷することがあるため、執行は中止される。実際、今回のオウム最後の裁判で無期懲役が確定した高橋克也被告の公判では、6人の死刑確定者が証人として喚問された。
1月20日付の読売新聞は、「全員の刑が確定するまで執行できなかった。裁判終結を機に慎重に検討することになるだろう」という法務・検察幹部のコメントを掲載している。
執行までには多くの問題が残されているという。各紙がそのあたりも詳しく分析しているから、多くを繰り返す必要はなかろうが、そもそも検討といっても、何をどう検討するのだろう。
執行については法務省内部で検討し最終的に法務大臣の署名によってゴーサインが出るという。
オウム真理教は、その後3団体に分派したが、なお麻原教祖への帰依を深めている団体もあるというから、執行によってことさら神格化され、報復のテロが起きる事態も懸念される。テロを恐れて執行を躊躇し、その懸念のないほかの確定者の執行は行うということになれば、法の精神、正義に反するだろう。
麻原教祖は、裁判の当初から異常なふるまい、行動が目立ち、自ら真相を語ることはなかった。自分の家族はどうして命を奪われなければならなかったのか、割り切れぬ思いを抱える遺族たちの立場に立ってみても、麻原教祖から直接思いを聞くことができないというのでは、悔しいだろう。
13人のうち、だれが先に執行されるかという問題もある。1月20日付読売新聞は、「松本智津夫が最初ではないか」という別な法務・検察首脳のコメントを掲載していたが、異様な挙措を繰り返す麻原死刑囚の場合はどうだろう。
刑事訴訟法では心神喪失の場合、執行は見送られる。麻原教祖については、家族が横浜地裁に起こした民事手続きに関して、東京拘置所が2017年5月、「明らかな精神障害は生じていない。面会はかたくなに拒否している」という報告書を提出しているというが、微妙なところだろう。
教祖は先送り、ほかの教団幹部が先ということでは、これまた、物議をかもす。
専門家の見解を聞いてみた。弁護士で刑事事件に明るい法科大学院教授の一人は解説する。
「死刑の執行そのものがどのように検討されているのかは、外からでは全くはうかがい知れない。あれこれ予測することは困難だ。〝執行を検討〟というのも、まったくの憶測記事だろう。政府は重大な国家権力行使である死刑制度についてもっと情報を公開すべきであり、むしろ、これを機会に、死刑制度について、広く考える機会にしてもいいのではないか」ー。
執行はいつか、誰が先かなどを興味本位に論じるのではなく、制度の本質について真剣に考えるべきということだろう。含蓄ある示唆だった。
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