2024年11月25日(月)

Wedge REPORT

2011年1月29日

 宮治さんの養豚場は約0.8haと、日本の平均農地1.8haと比較して半分以下の小規模農家だ。しかも、「豚をいかにストレスなく育てるか」を追求し、頭数も10頭前後の兄弟を一緒になるべく同じ部屋で飼育するという、独特の方法をとっている。大規模な養豚場ではだいたい30頭前後の豚を一緒に飼っており、限られたスペースでどれだけ多くの家畜を飼育するかという効率を求めるのが畜産業の常識だ。みやじ豚は、「要は半分のスペースとその分の利益を捨てているようなもの」(宮治さん)だが、そのストレスレスな環境によっておいしい豚が育ち、さらにこのストーリーが「みやじ豚」の付加価値となり、消費者へのアピールポイントとなる。

 また、宮治さんは流通経路にもメスを入れた。卸売業者(加工会社)と直接契約を結び、解体などを一括して依頼。それを再度仕入れ、宮治さんが販売する。これによって、そのまま市場に出荷するルートに加え、新たに販路をもつことが可能となった。また、みやじ豚に関する情報を月に1回、メールニュースで配信している。みやじ豚が食べられるレストランの情報や、みやじ豚を使ったバーベキューの開催情報などを、まずは宮治さんの知り合いやすでにみやじ豚を買ってくれた人たちへ送り、クチコミでどんどん広がっていき、今ではメルマガ会員は1万人にのぼる。

 さらに、今でこそ口蹄疫などの問題から、取材や見学は一切断っているが、タブーとされている豚舎の見学を、最初は積極的に受け入れていた。これもまたこの世界では珍しく、他の豚との差別化を図ることに成功した。「多くのレストランのシェフは、見学できたことだけで非常に感動したり安心したりするようで、『ぜひみやじ豚を扱わせて欲しい』と、値段の交渉前に言ってくれる。こうなるとこちらの言い値で取引を進められることが多い」と、経営者としてみやじ豚を広めてきたノウハウを教えてくれた。

 インターネットで買ってもらう、バーベキューに来てもらう、レストランで食べてもらう…。みやじ豚のブランド化に加え、宮治さんはこのように多様な販路をもつことで、TPPも恐れない自信を得た。「私は、『農業は生産から消費者の口に届くまでをプロデュースするもの』という考えのもと、経営者として努力を続けてきた。こういう考えをもっている農業者は少ないし、平均年齢65歳という農家の多くは、『めんどうなことをしなくても年金も補助金ももらえるから』というのが本音ではないでしょうか。それでTPPに反対、というのは筋違いだと思います」と、現代の日本の農業の問題点を指摘した。耳の痛い農家は少なくないのではないだろうか。

TPPに立ち向かう大潟村のコメ専業農家

 「大きな声では言えませんが、私はTPPに諸手を挙げて賛成です」。

 こう話すのは、秋田県大潟村でコメ専業農家を営む、キクチファームの菊地幸彦さん(47歳)。菊地さんによれば、「残念ながらTPPに反対しているのは、農協と、農協を頼り切っている農家がほとんど。やる気のある農家は、少なくとも私の周りでは絶対反対という立場の人はいません」と、現在の周囲の状況も語ってくれた。

 菊地さんの農地は15.4haと、全国平均は上回るが、コメどころの大潟村ではむしろ平均を下回る規模だという。戸別所得補償にも入っておらず、補助金に頼らない農業を実践中。コメの販売価格は10kgで4500円だ。スーパーに行けば2000円台で同量のコメが買えることを考えると、やはり高価格と感じられる。それでも、年間売上約1800万円程度を稼いでおり、コメ農家として成功している部類に入る。関東近郊を中心とした小売店での販売と、宅配、そして卸業者へ少しばかり出荷するという形をとっているが、宅配では販売量を安定させるためにインターネット販売をせず、知り合いを中心にクチコミだけで、全国へ広げてきた。「最初の頃は販売ルートを拡大するために、全国各地を営業しました」と、販路を開拓していく重要性を語ってくれた。


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