最近Foreign Affairs誌とその母体の外交問題評議会は、ジョセフ・ナイのソフト・パワー擁護論、ロバート・ブラックウィルの新冷戦論に加えて本件論説等、超党派エスタブリッシュメントの外交哲学をまとめてトランプ政権にぶつけている感があります。
この論説は、トランプ大統領の単純な「アメリカ・ファースト」志向をたしなめ、戦後米国が築いた世界体制と同盟システムを大事にするよう求めたものです。
論説の趣旨には賛成しますが、トランプの特異性を誇張し過ぎている気があります。トランプは、英雄主義と保護主義が入り混じる米国の保守的大衆を煽動することで当選した人物であり、その言動には過度のレトリックが混入しています。レトリックを批判しても、実効性はありません。
トランプ大統領の言う「アメリカ・ファースト」は、内向きになることを意味していません。トランプは、ドイツ、日本等が自由貿易に悪乗りして米国への輸出を増大させ、他方、国防支出は切り詰めていることを批判しましたが、それは同盟体制の否定ではありません。トランプは、軍事費を大幅に増やして米国の圧倒的力を維持する一方で、現行の世界秩序の中で、同盟諸国にも負担をもっと負ってもらおうとしているに過ぎません。
国務省は、その機能を低下させているようです。しかし、中国もロシアも悪態をつきながらも、実際はトランプ政権の意向を忖度して動いています。NAFTAの改組や対中貿易赤字の解消は進んでいませんが、米国経済自身は完全雇用の状況にあり、賃金も上昇しています。その中で、法人税の大幅減税が実現したため、一部大企業は米国内の投資を大幅に増加する計画を発表しています。つまり、トランプ政権の下で実際に起きていることは、それほど悪くないのです。但し、トランプの一連の政策が国債の大増発をもたらし、それが長期金利水準の急上昇、米国債等債券価格の崩落と金融恐慌の再来をもたらす危険性が現れつつもあります。
米国政治は既に、秋の中間選挙の前哨戦に入っていて、論壇での議論もそれを念頭に置いたものになっていくでしょう。トランプの足を引っ張りたいなら、この論説のように「1年前であれば有効であった」主張にしがみついていても徒労に終わります。
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