忘れられないのは、タンタル国際会議が2000年にサンフランシスコで開催されたときに当時のメタルトレーダーはかなりの投機在庫を抱えていたので、何とか売り逃げるために口々に「まだまだ市況は上がる」などとデマ情報を流していた。
当時は筆者も欧米の投機筋に踊らされた結果、かなりの投機在庫を持っていたが、複数の海外の需要家からは安定供給ルートを維持するため、筆者にも「必ず引き取るから少しだけ預かっておいてよ」と保証のない口約束を乱発されていた。筆者も若かったので(おまけにかなり利益をためこんでいたので)深く考えずに「急落はないだろう」と、タカを括っていた。
はたして2001年にITバブルが弾けた時の恐怖たるや、いまでも忘れられない悪夢の日々となった。その時の市場はパニック状態になり自殺者が出たり(交通事故に見せた)不審死が世界中で発生した。まさにレアメタル取引の闇であった。
あれだけ出てこなかったタンタル在庫が一斉に売られたために「売りが売りを呼ぶ展開」で瞬く間に半値八掛けの相場になってしまった。その結果、売り契約は反故にされるし、高値在庫は売るにも売れない状態になった。
「山高ければ谷深し」で、当時のタンタル狂想曲は終わりを告げた後も10年以上はタンタルは危険な市場だということが定説となり、市場では代替材料を使い、できるだけタンタルの使用量は減らしてタンタルに依存しないようになった。
紛争鉱物の本質とは何か?
紛争鉱物について詳細に調査していくと、裏にうごめく米国の影が見え隠れしてくる。アメリカの国内金融法フランクドット法がコンフリクトミネラルの元凶だという見方もある。紛争鉱物とは、略して3TGという言い方をするが、これはスズ(Tin)、タンタル(Tantalum)、タングステン(Tungsten)、金(Gold)のそれぞれの頭文字をとった略称である。
紛争地帯で採掘される鉱物のことを言っているのではなく、これら4種類の鉱物とその派生物の総称である。したがって、コンゴ周辺でなくとも、3TGの4つの金属と派生物をまとめて「紛争鉱物」と呼んでいるので、コンゴ民主共和国(DRC)と国境を共有する国で、アンゴラ、ブルンジ、中央アフリカ共和国、コンゴ共和国、ルワンダ、南スーダン、タンザニア、ウガンダ、ザンビアが対象国となっている。
これらの国に由来するからといって必ずしもそれが武装勢力の資金源となるわけではないが、一般的には紛争鉱物の対象国となっているのは、これら10カ国ということになっている。また、なぜかコバルトは紛争鉱物には入ってないが、最近ではコバルトについてもトレーサビリティーを明確にするべきだとの意見も出てきているようだ。
一方、今年に入って米国財務省は、紛争に関連する鉱物を使用する企業からの開示を要求する規則、ならびにドッド・フランク法の他の部分を廃止するよう求めているが、紛争鉱物の規制がタンタルの安定供給を阻害しているため先高感を煽る欧米の投機筋がタンタルのスペキュレーション(投機)を進めている。筆者の視点からいえば、昨今の投機筋の手口は巧妙で2017年の年初から目立たないようにタンタル資源を底値で集荷しながら情報操作を繰り返しているようにみえる。
人権保護団体と紛争鉱物監査組織の功罪
人権団体のアムネスティーがDRCの児童労働について問題視しているのは、前回にすでに述べたので多くは語らない。一方のコンフリクトミネラルの発生場所とそのサプライチェーンをチェックする組織がある。取引現場ではEICC/GeSI 紛争鉱物報告テンプレートを使用して記入した紛争鉱物に関する申告書を提出することを義務付けられているが、Electronics Industry Citizenship Coalition(EICC) 及びGlobal e- Sustainability Initiative (GeSI)の組織のチェックシステムが本当に機能しているかどうかは、さらに時間を要するようだ。鉱山の現場では多大なる手間とコストをかけるならば反政府武装組織の搾取と大きな差はないと否定的にみる現地の鉱山企業もいるようだ。