縁あって宮城野部屋に拾われ、白鵬が出世街道を歩み始めてからも、ムンフバトさんの胸中は複雑だったようである。2007年に日本人の紗代子夫人と結婚すると、モンゴル国民の感情的反発も招いた。さらに親方株取得のため、白鵬自身が日本国籍を取得する可能性がささやかれ始めたときは、ムンフバトさんが激高。実際、09年夏、私がウランバートルの実家を訪ね、この件について質問したら、「そんな話をするのはまだ早い!」と険しい表情で一喝された。
白鵬が日本国籍取得の意思を固め、日本のマスコミに大きく報じられてからも、会見を開いて公式にコメントを出さなかったのは、尊敬する父ムンフバトさんの胸中を慮ってのことだったと言われる。ただ、母タミルさん(70歳)が日本のメディアに語ったところによれば、ムンフバトさんも亡くなる前は息子が日本人となることを許していたそうだ。
白鵬としては、何としても今場所で賜杯を抱き、父の墓前に優勝を報告したいところだろう。そこまでやってこそ、晴れて日本国籍を取得すると、公に宣言することもできる。それが、今場所に復活を期す二つ目のモチベーションでもある。
そして、三つ目のモチベーションは昨年の日馬富士暴行問題以来、大きく低下した自分自身のイメージ回復、〝綱の威信〟の復活だ。2020年東京オリンピック開幕セレモニーでの土俵入りを目指す白鵬にとって、〝悪役〟のままでいることはプライドが許すまい。
もちろん、そのためには、「強い相撲」と同じくらい、「美しい勝ち方」をすることも求められる。様々な意味で、今場所の白鵬の土俵に要注目だ。
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