トランプ氏のこうした行動の理由は大きく言って2つある。1つは選挙公約を守る姿勢を示すこと。11月に中間選挙を控える中で、有言実行の指導者であることを印象付けることは同氏にとって重要だ。もう1つは「“影の政府”を米政府内に残している」(バノン元首席戦略官)という前任者のオバマ氏の業績を否定することだ。
オバマ氏はこれまで、トランプ氏にどんなに侮辱されても沈黙を守ってきたが、今回は余程腹に据えかねたようで、「離脱は深刻な過ち」との声明を発表。国際的な合意や協定を軽視するトランプ氏に強い懸念を表明した。
最大の敗北者はロウハニ大統領
トランプ氏の今回の決定で、最大の敗北者はイランのロウハニ大統領だ。逆に核合意に反対してきた革命防衛隊など同国の保守強硬派が勢いづくのは確実だ。強硬派は米国を信用できないと主張し、ロウハニ大統領を非難してきたが、その言うとおりになったからだ。ロウハニ大統領は米国を除く英仏独中ロの合意順守派5カ国と新たな協議に入る方針を明らかにしたが、立場の弱体化は覆うべくもない。
一部には軍事クーデターのうわさも出ていただけに、最高指導者のハメネイ師がどんな対応を示すのかが注目の的だが、強硬派はこの機会をとらえて一気に大統領の追い落としを図るだろう。米国が離脱するという観測が強まる中で、イランの通貨リアルの価値は30%も下落、国民のロウハニ大統領に対する信頼が急速に低下しているのも大統領にとっては痛い。
日本への影響も避けられない。イランからは日量220万バレルの原油が輸出されているが、制裁で輸出量が低下すれば、原油の供給不足の懸念から石油価格が上昇する可能性が高い。すでにその傾向が出ており、日本でのガソリン価格は9日、1リットル約146円と、3年5カ月ぶりの高値になった。
また、制裁ではイラン中央銀行との取引停止も含まれているが、外国の企業に対しても猶予期間後に同銀行との関係を断つよう要求しており、断たなければ米国の銀行システムから締め出される恐れがある。イラン核合意以来、日本企業もイランの経済復興を目当てに同国への進出を図り、現在は30社以上がテヘランに事業所を設置しており、各社は頭を抱えている。
かつて、日本はイランに持っていたアザガデン油田の権益を米国の圧力で放棄した苦い過去がある。日本はイランと独自の関係を築いてきているだけに、トランプ政権が対イラン制裁に同調を求めてきた場合、安倍政権の対応が厳しく問われることになる。