このように、一度の首脳会談(5月9日午前10時から11時15分)において、同時に二つの文書、「共同宣言」と「共同声明」が発出されたことは、注目に値する。いかに現在、朝鮮半島情勢が急速に動いていて、日本、中国、韓国、それぞれが関わって行くことが重要かを物語っている。今後の朝鮮半島情勢が、今以上に自国の国益に不利になっては困る、より自国の利益が増進されるように状況を持って行きたいと、様々な駆け引きが行われているのが現状であろう。
「共同声明」文では、4月27日の南北首脳会談を評価しつつ、「来る米朝首脳会談」に「強く希望する」旨が述べられた。その来る日が6月12日で、開催地がシンガポールであることが、日中韓首脳会談の翌日、5月10日、トランプ大統領のツイッターで最初に公表された。この開催地と日時を決めてきたのが、トランプ政権のポンペオ新国務長官で、5月9日に、4月に続き金正恩との会談を行い、北朝鮮で拘束されていた3人の朝鮮半島出身米国人を解放させ、彼らと共に帰国した。トランプ大統領が午前2時に空港に出迎える等、英雄扱いの3人はとても元気だった。かつて北朝鮮で拘束され解放、帰国後に脳の障害で亡くなったオットー・ワームビアさんとは、随分違う状況だった。
日中韓首脳会談が行われる直前の5月7-8日、金正恩労働党委員長は急遽訪中した。習近平中国共産党総書記と第1回の首脳会談を3月25-28日に行ってから、1か月余りでの、第2回目の中朝首脳会談である。この焦り様は、兄貴分の中国の習近平総書記に何かを相談にしに行った気配だった。相談とお願いが終わるなり平壌で待っていたのは、前述したポンペオ長官との会談だった。北朝鮮にお願いをされた習近平総書記は、ポンペオ長官が北朝鮮に着く前に、トランプ大統領と電話会談をしている。様々な取引、交渉が行われ、次々と朝鮮半島をめぐり物事が進んで行く。
その過程での、日中韓の首脳会談だった。北朝鮮が、5月23-25日に核実験場を廃棄する際に、日本のメディアを入れないとしたり、日本との拉致問題には全く触れずにいたり、日本を無視するような態度を取っている中、日中韓首脳で朝鮮半島問題に協力して対処するとの共同文書が出来た意義は大きい。6月12日の前後にも日米首脳会談は開催される予定だ。これらを通じて、日本の立場が今後の朝鮮半島情勢に反映されると良いのだろう。とにかく朝鮮半島をめぐる動きは早い。非核化のみならず、平和条約の締結もあり得るだろう。
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