安くて旨い。
それは当たり前。それに加えて……というのが天満〔てんま〕。環状線で大阪駅のお隣の駅。東京で言えば、有楽町から新橋のあたりと同じ感じである。あのガード下あたりの、気軽に飲み食いを楽しめる猥雑な雰囲気の心地よさ。とはいえ、天満には大阪だからか、ひと味違う楽しさ、美味しさがある。
その魅力を教えてくれた大阪の食いしん坊仲間が、例えばというのが「かい原」という寿司屋。「お任せ」、つまり、あれやこれやの酒の肴で一献、その上で一通り握ってもらう。それで食べる方は3500円。飲み代を入れても、常識的なお酒なら、五千円札で収まるという。回転もしておらず、大皿盛りでもなくて、目の前で一貫ずつ握ってくれる、真っ当なお寿司が。
素材などよほどの工夫がないと、そのお値段は無理だろう。試してみたいと案内してもらったが、満席。カウンターだけの小さい店だし、当たり前か。予約をして出直そう。次の楽しみが増えたということで。
ならば、中華料理の「豪火〔ごうか〕」。ここも人気店で予約なしには難しいらしいのだけど、たまさか入れた。「これが中華?」とちょっと驚く、フレンチかイタリアンのような小洒落た内装。そして、お任せのコースが5000円という値段設定。さすがに、5000円のどこが安いのかと訝るが、試して納得。いやはや。
趣味の良い広東料理系のヌーベルシノワ的料理。そして、フグの白子のような和食的高級食材から、フカヒレのような中華お約束の高級食材も惜しげもなく使われている。
巨大な肉塊に呆れたのが、ブランド豚肩ロースの黒酢酢豚。野菜に肉が見え隠れするのではなくて、握り拳のような肉塊が、そのまま酢豚になっている。堅焼きそばには、それで一品の料理かと思うほどに大きく切ったハモやタコが、これでもかと豪快に入っている。そして、ちゃんと美味しい。味わいは端正な正統派。酒の揃いもよろしいので、ついつい進んでしまう。なるほど、こういう「安さ」もあるかと、幸せな気分。