2022年8月10日(水)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2018年6月21日

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 上記講演は、ちょうど、イタリアでポピュリストのコンテ政権が発足した直後に行われた。コンテ政権は、ユーロを離脱するとは言っていないが、ドイツが主張してきた緊縮財政に反対している。当然、今回のEU改革案発表には、イタリアの新政権が念頭にあったものと思われる。そういう意味でも、今回の提案では、財政・金融関連が特に注目された。

 メルケルは、欧州安定メカニズム(ESM)をIMFと同様の「欧州通貨基金」に改組し、長期的信用供与に加え、短期の資金援助も増やすよう提案している。この案は、昨年9月にフランスのマクロン大統領が発表したEU改革案にも含まれていた。また、信用供与や資金援助よりも、EU共通予算が重要なのではないかとの議論がある。マクロンの構想には、後者に当たる「欧州財務相」の設置やユーロ圏共通財政が含まれていたが、メルケルの今回の案は、そうした点には踏み込んでいない。

 マクロンの構想は、昨年、ドイツの総選挙を受け、ドイツの新政権の支持を当てにしたものであったが、ドイツ側の反応は鈍く、フランスとしては、苛立ちが募っていた。しかし、総選挙での反ユーロ・反EUのポピュリスト政党AfD(国民の選択)の躍進、メルケル自身の政治基盤の弱体化など、ドイツの国内政治的雰囲気を考えると、急進的なEU改革には乗り出せないであろう。

 こうした状況に鑑み、当面、EU改革の目立った進展は望めないように思われる。独仏関係にも不透明さが漂う可能性がある。EUの共通の価値観、すなわち、自由、民主主義、人権、国際協調主義などにとって明るい話ではない。
 

  
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