2024年11月23日(土)

ネルソン・コラム From ワシントンD.C.

2011年4月16日

 そんな「ニュース」は大変な大スキャンダルになり、オバマ大統領にとっては致命的な政治問題になりかねない。というのも、「センセーショナルな見出し」にはその時、「大統領がNRCの警告を無視、米国市民が死亡」と書かれるからだ。

 公正を期して言えば、これは大統領にとって明らかに受け入れられない「リスク」だ。このため大統領は賢明な政治家なら誰もがやることを、何のやましさも覚えずにやった。何しろ、大統領にはその判断を裏づけるNRCの明白な科学があったのだから。

 これで、ホワイトハウスについては説明できた。だが、NRCはどうか? 避難区域のほかにもいくつかの問題で、NRCは東電や日本の原子力専門家よりもかなり悲観的、あるいは危機的な科学的所見を発表しているように見えたのは、なぜか?

 オバマ大統領の話が事実に基づいていることは、まず間違いない。NRCの状況に関する我々の説明は、自ら行った取材に基づいているが、正直言って主に、取材で明らかになったことに対する我々の勘に基づいている。

最悪の事態も想定したNRC

 爆発直後の2週間に、米国のまじめな原子力専門家に聞いた話からすると、NRCの科学者たちは、最も過激な報道を除くあらゆる米国メディアの報道よりも、はるかに途方もなく危険な可能性について知らされ、互いにその可能性を話し合っていたのではないかと我々は推察している。

 この状況は、日本人が伝統的に受け入れる「ホンネ」と「タテマエ」の違いによって最もうまく説明できるかもしれない。日本人は本能的に、必ずと言っていいほど、隠された本当の話と(よくて)不完全な表向きの話があることを受け入れる。そうでしょう?

 ここで、我々が聞いた話の中で最も劇的な事例を紹介しよう。米国のある原子力専門家から聞いた、「タテマエ」ではなく「ホンネ」に当たる話だ。この人物は、もしかしたら「本当」になるかもしれないと彼が考えていることについては絶対に書くなと言って、興味深く、示唆に富む問題を明かしてくれた。

 情報源「ネルソン、我々が目にしているものに基づいて心配しているのは、こんなことだ。もし東電が最終的に、損傷した使用済み燃料棒の冷却・貯蔵プールの給水機能を回復できなかった場合、我々が予想する起こり得る結果、起こりそうな結果だが、もし君がこれを書いたら私はクビになり、君は危険なトラブルメーカーだと呼ばれることになる。いいか?」

 筆者「むむむ・・・何てこった・・・分かった」

 情報源(原子力とは直接関係ないが、米国政府のために原子力関連の機密業務を手がけている人物)「よし。もし東電が十分な水を注入できなかったら、燃料棒がいずれ溶融し始めるのを止めることができない。不可能だ。とにかく止められない。それが起きたら、燃料棒は途方もない量の熱を出す。それはとてつもない熱量で、炉心そのものを爆発させる。もし、もしも燃料棒を冷却できない場合は、これは止められないプロセスだ。言っていることが分かるかい?」

 筆者「むむむ・・・何てこった・・・分かった」

 情報源「よし。最初の原発が熱で爆発したら、それが大量の熱を発して、並んでいる原発が次々に爆発する。止められないんだ! それで、原発が全部爆発したら・・・4基が隣接して並んでいるんだろう? それが起きた時は、チェルノブイリよりひどいことになる。言っていることが分かるかい? 我々が今目にしているのは、こうした事態の進行で、奇跡が起きない限り、かなり早くに起きると我々が考えているのは、こういうことなんだ」

 筆者「むむむ・・・何てこった・・・一杯食わそうとしているんじゃないんだね? つまり、もし万が一これが起きたら、本当に『チェルノブイリ以上にひどい』ことになるわけか? 単に、比喩ではなくて?」

 情報源「悪い。本当に残念だ。この事故は、日本人にとって筆舌に尽くし難い悲劇のように見える」

 上記の会話は現実に交わされたもので、次第に筆跡が乱れていく我々のメモをそっくりそのまま記録したものだ。

 言うまでもなく、ありがたいことに、「最悪の事態」は起きなかった。大勢の消防隊員や東電社員、その他の作業員の命がけの勇敢な行動のおかげだ。


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