何かは「隠蔽」に違いない、もしかしたら「唯一最大の事故」さえ隠蔽されるかもしれない、というわけだ。
これは全くフェアではない。だが、チェルノブイリ事故でソ連が見せたいまだ不可解なひどい対応は、米国原子力産業が抱える根本的な信頼性の問題とPR能力のなさを増幅させることになった。米国企業はチェルノブイリとは全く無関係であり、ソ連の対応は事故当初から信じ難いほど不正直で、危険、かつ自滅的なものだったにもかかわらず、だ。
(1つ、肯定的な出来事があった。ソ連と比べた場合の東電と日本政府の対応は、両者の違いに対する重大な認識を生み、今回は日本にとって有利な社会的、政治的、科学的な違いが浮き彫りになったのだ。この点については以下で触れる)
日本の原子力災害のために、チェルノブイリ原発事故の分析が猛烈な勢いで「復活」し、米国メディアは一貫して見事な仕事ぶりを発揮して、事故の原因と、事故後のソ連政府のウソのパターンを解析した。チェルノブイリの事故を、これが永遠に最後であってほしい「史上最悪の原発事故」にしたのは、こうした政府のウソだった。
また、こうした記事が書かれる過程で、米国では、原発の設計や運転のパフォーマンス、事故後の対応、中でも懸念事項や事実関係、対策に関するコミュニケーションについて、日本と東電に有利となる精緻な検証が相当行われた。東電の経営問題やスキャンダル、幾多のお粗末な失態に関するよく知られた事実を密に調べたうえでも、そう評価されたのだ。
ここまでは、すべていいだろう。だが、ここで先に指摘した最初の大きな「ズレ」の話になる。米国政府はなぜあれほど急いで、日本政府の避難勧告区域の2倍もの避難区域を勧告したのだろうか? 我々は、ここには2つの根本的な理由があったと考えている。1つ目は完全に「政治的」な意味、2つ目は主に「科学的」な意味合いの理由だ。
オバマ大統領の政治的リスク
まず、政治的な理由はこうだ。米国と日本のメディアは米国務省による発表を米国「政府」の決断、従ってホワイトハウスかバラク・オバマ大統領の判断として表現したが、現実はもっと複雑であると同時に、もっと平凡だった。実は、国務省の発表につながった調査と報告は、独立政府機関である米原子力規制委員会(NRC)によって行われたものだ。
「NRC」の委員長と委員は、ひとたび大統領が指名し、上院が承認したら、基本的にそこで米国政府の直接的な影響力の終わりとなる。本当なんです! そこで、我々の見るところ、国務省の発表前にオバマ大統領とヒラリー・クリントン国務長官が突きつけられたのは、以下のような状況だった。
NRCはその科学的な専門知識に基づき、日本政府の2倍の避難区域を勧告している。オバマ大統領はそれまで1週間ずっと、日本政府を信頼していると言い続け、危機において米国人がどれほど日本人を支援しているか強調してきた。だが、もし大統領がNRCの勧告を「却下」し、国務省に「2倍」の避難勧告を出さないよう指示したら、それでもNRCの勧告の事実は変わらないし、もし「最悪のケース」が起きたらどうなるか――。