2024年11月23日(土)

ネルソン・コラム From ワシントンD.C.

2011年4月16日

 その理由の大部分は恐らく「文化的」なものだったが、ここには政治や政策の問題も絡んでおり、それが後に米国政府と日本政府の間に生じた最初の「ズレ」に重要な役割を果たした。すなわち、米国務省が日本に住む米国民に対し、東電と日本政府が設けた避難勧告区域の2倍の広さの地域から避難を「検討」するよう「勧告」した一件だ(この「ズレ」については、本稿の後半で改めて触れる)。

 「文化的」要素というのは基本的に、明らかに「責任」が問題となる危機やスキャンダルが起きた時の政府や産業界に対する根強い不信感だ。米国のジャーナリストは信条として(あるいは信頼感を持たないために)、事態の展開によって事実を立証できるか、「専門家」からの裏づけを得られない限り、与えられたネタを信じない。

 原子力関連のニュースでは、その傾向が2倍、3倍に強まる。これについては、我々が1983年にワシントンに拠点を置く日本のコンサルティング会社に最初に勤めた時、米国の原子力産業の手助けをしようとした個人的な経験から証言できる。

 WEDGE Infinityの読者の皆さんが恐らく今頃もう気づかれているように、米国ではこの40年間というもの、新たな原子力発電所が1つも建設されていない。

 その大きな理由は、当時の米国原子力産業のPR戦略が間違った前提に基づいていたからだ。率直に国民の不安と向き合い、正直に良い点と悪い点を議論し、どんな不安が現実的であり、そうした不安の原因を減らすために何がなされているか話し合うことは、ご法度だったのだ。

 「ダメですよ、ネルソンさん」。我々はクライアント(ここワシントンにある米国原子力産業のロビー団体)に何度もこう言われた。「人々が心配していることについて何か一つでも口にしようものなら、我々は全員クビですよ! それに、どのみち、問題があることを認めたら、メディアはそれしか書かないんだから!」

 このため、例えば、当時は起きて数年しか経っていなかったスリーマイル島の爆発事故について真摯に調査が行われ、原因が是正されていることを説明して米国人の不安を和らげようとする我々が提案したアプローチは、何一つ受け入れられなかった。このことは意図せずして、神話の威力、あえて言わせてもらうなら、常に「起こり得る最悪のケース」について論じる反原発活動家がよく使ったウソを補強してしまう結果になった。

 そして、もしかしたらそれ以上に悪いことに、原子力産業が実際にある程度正直になり、人々に対して率直になろうとした時に、業界の信頼性を損ねる結果になった。というのも、何年にも及ぶ否認と言い逃れが、業界が言うことは何一つ本当であるはずがなく、少なくとも完全に本当ではないということを市民と報道機関に「教えた」からだ。


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