2024年4月19日(金)

日本の新常識

2011年5月2日

――あらためて、いまの消費者とメーカーの関係をどのようにご覧になっているか、お聞かせください。

中尾教授 なぜ今のような状況になったのか。欧米と比較すると、日本の状況がよく見えてきます。

 この3月に、欧州委員会のなかの日本の消費者庁にあたる部署の責任者にインタビューしました。欧州は日本と異なり、メーカーが製品を作るにあたって、とても厳しい規格(スタンダード)を設けています。私は、この規格は日本のように消費者からきた要望やクレームを反映させていった結果なのかと思っていたのですが、聞いてみるとそうではない。欧州では、27カ国の代表者が三人ずつ集まり、メーカーのバックアップのもと、議論して規格を決めているのです。そこで「こうしなければならない」と、トップダウンで決めていきます。

 たとえば、子どもが火遊びできないように設計されたライターや、寝タバコができないよう、特殊フィルターを入れて一定以上は燃えないようにしたタバコもありますが、どちらかといえばメーカーからの提案のようです。つまり、消費者からの「これは使いにくい」とか「これは危ないから、こんなものを作ってください」という声を、反映させているわけではないのです。もちろん欧州にも消費者団体はありますが、力が弱くて予算も少ないのだそうです。

 欧州がそうするのは、域内のメーカーや市場を守るため。もし規格がゆるければ、メーカーが「うちの製品はこんなに厳しい規格を満たしているものだから、安全・安心なものです」と言えなくなるし、市場のほうも、中国等から低価格低品質の商品がどんどん入ってきてしまう。欧州はそうならないように、高い壁をキープしてきました。

 一方、日本のものづくり規格は、戦後から一貫してミニマム・リクワイメント(最低限の必要条件)でやってきました。戦後、工業製品を輸出していた時代に、「ある一定以上の質をキープしていくことで、“Made in Japan”ブランドを守ろう」という考え方でものづくりをしてきましたが、今も当時の規格がそのままになっている。

 日本のメーカーは、あらかじめ設定された規格で守られているわけではなく、自主努力で成長してきたといっても過言ではない。だからこそ、ものづくりに対する高い意識が磨かれてきたということもあります。消費者が「あのメーカーの製品は、質がよくない」という評判を立て、マスコミの攻撃が広がることが怖い。安全・安心な製品を作り、消費者から指摘される前に自ら改善していこうというメーカーやエンジニアの気持ちが、率直に反映されてきたと言えるでしょう。すなわち、日本では欧州と同じくらい高いレベルのものを作っていますが、必ずしもお役人の努力だけではないわけです。

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