2023年12月6日(水)

野嶋剛が読み解くアジア最新事情

2018年7月11日

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野嶋 剛 (のじま・つよし)

ジャーナリスト、大東文化大学教授

1968年生れ。ジャーナリスト。上智大学新聞学科卒。大学在学中に香港中文大学に留学。92年朝日新聞社入社後、佐賀支局、中国・アモイ大学留学、西部社会部を経て、シンガポール支局長や台北支局長として中国や台湾、アジア関連の報道に携わる。2016年4月からフリーに。著書に『イラク戦争従軍記』(朝日新聞社)、『ふたつの故宮博物院』(新潮選書)、『謎の名画・清明上河図』(勉誠出版)、『銀輪の巨人ジャイアント』(東洋経済新報社)、『ラスト・バタリオン 蒋介石と日本軍人たち』(講談社)、『認識・TAIWAN・電影 映画で知る台湾』(明石書店)、『台湾とは何か』(ちくま新書)。訳書に『チャイニーズ・ライフ』(明石書店)。最新刊は『タイワニーズ 故郷喪失者の物語』(小学館)。公式HPは https://nojimatsuyoshi.com

中国が目論む「マラッカ・ジレンマ」の打破

中国が目論んできた「マラッカ・ジレンマ」の解決策(筆者記述をもとに編集部作成) 写真を拡大

 マラッカ・ジレンマとは、中国のエネルギーや物流にとって死活的な意味を持つマラッカ海峡の安全航行について、米国やその他の国々に事実上コントロールを握られている現状を指すものだ。中国も日本と同様、エネルギーの主体である原油の輸入を中東に8割も依存している。そのタンカーのほとんどはマラッカ海峡を航行する。

 万が一、このマラッカ海峡が封鎖されたらどうなるか。その影響は中国の国家運営そのものを揺るがす恐れがある。中国経済の生命線は海運業だ。アジア・中東・アフリカから流れ込んでくる物資が南中国の港湾に無事に到着しなければ、大変な事態になる。しかし、中国にはほかに選択肢はない。だからジレンマなのである。

 ところが、もし、縦長で南に垂れているマレー半島を横断できるルートが確保できれば、マラッカ・ジレンマへの代替輸送の備えができるのである。

 最初に考えたのは、タイ南部のクラ地峡を掘削して、運河にする「クラ運河」構想だった。しかし、この大運河構想は1970年代から取り上げられており、ここ10年も盛んに論じられて水面下でタイ政府と中国政府の間で議論が進められてきたが、工事の巨大さなどもあって実現は不可能と判断された。次に中国が持ち出したのが、マレー半島東側のクアンタン港と、西側のクラン港を結ぶことになるマレーシアの東海岸鉄道だったのである。


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