2024年4月24日(水)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2018年8月24日

 ARFは、ASEAN加盟国10か国、日米中印豪など関係国16か国、および欧州委員会からなる、政治・安全保障問題に関する対話と協力を通じ、アジア太平洋地域の安全保障環境を向上させることを目的としたフォーラムである。

 今回の議長声明では、南シナ海については、昨年同様「懸念」の文言が盛り込まれ、さらに、昨年は入っていなかった「非軍事化」の重要性の強調が盛り込まれた。中国が南シナ海の人工島の軍事化を加速させる中、非軍事化の重要性を強調できたことは評価すべきではある。しかし、ASEANを中心とする枠組みで実効性のある対応をすることの困難さが改めて浮き彫りになったとも言える。

 その困難の理由としては、ASEANの意思決定が全会一致を原則とすること、ASEAN内で中国に対する温度差が大きいことが挙げられる。例えば、カンボジアは極めて親中国であるが、ベトナムは対中強硬派である。マレーシアは、ナジブ前政権が中国寄りであったのに対し、今年の総選挙でマハティールが首相に復帰して以降、中国に批判的となっている。中国は、ASEAN諸国を経済的に懐柔しようと躍起になっている。こうしたASEAN加盟10か国で、全会一致で物事を決めるとなると、限界があるのは当然である。

 南シナ海における行動規範(COC)については、中国側は法的拘束力をないものにしたいというのが一貫した姿勢である。そういうものを仮に策定したとしても、実効性をどのように担保するのか、それが行動規範と呼ぶに値するものかどうか、疑問がある。さらに、上記声明では「ASEAN加盟国及び中国がCOC交渉のための一つのテキスト案に合意したことに留意」とあるが、6月に合意したとされる初案で中国は、ASEAN加盟国に南シナ海での定期的な軍事演習を呼びかける一方、関係国間の事前合意なしに域外国と合同演習を行うことを認めない、という提案をしたと報じられている。ASEANの枠組みでは、南シナ海については、CUESのような偶発事態回避のメカニズム以上のものを望むのは難しいように思われる。

 しかし、ASEANは、今後とも地域の問題に取り組む際の中心的存在であり続ける。その建前を守りつつ、インド太平洋戦略の一環として、各国との協力を具体的に進めて行くということであろう。例えば、日本は、ASEAN加盟国、インド太平洋沿岸国に対し、海上警備能力の支援などを進めている。日本自身が南シナ海における航行の自由を守るためにどのように関与するのか、検討すべき時期も迫っているように思われる。

  
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