2024年4月27日(土)

Washington Files

2018年9月18日

トランプ大統領の攻撃の特徴

 その特徴は、段階的に3つに分類できよう。

 昨年1月ホワイトハウス入りする前後から、トランプ氏がテレビや新聞報道批判に乗り出した当時、もっぱら好んで使われた言葉は「フェイク・ニュース(虚報)」だった。ホワイトハウス内部での人事抗争や大統領個人の内輪の人種差別的発言などがリークされるたびに「マスコミ報道の全部とは言わないが、85%はフェイク・ニュースだ」などと根拠もない数字まで挙げて批判を続けてきた。

 とくに主要メディアに対する不信感はその後もエスカレートしてきており、いまや唯一信頼を置いているのは、右翼的体質がめだつFOXニュース放送局のみといっていいほどだ。事実、大統領は毎週のように同テレビ局の人気キャスターとのインタビューに応じ、視聴者向けに「インチキ報道」に反論するかたちで自説を正当化するのが常態化してきている。

 では、大統領自身、これまで真実を語って来たかと言えば、実際はまるで異なる。

 ワシントン・ポスト紙は社内に特設された「ファクト・チェッカー」と呼ばれる入念な追跡調査で、本人がこれまで記者会見や声明発表、ツイート発信などを通じ「事実とは異なる(false)、あるいは誤解を招く(misleading)発言」を具体的に回数にしてどれだけしてきたかについて興味ある結果を公表している。

 去る9月4日付けワシントン・ポストによると、昨年1月20日就任以来、592日間にその数は実に「4713回」に達し、1日平均にすると「8回」になるという。就任後の最初の100日間は「4.9回」だったのと比較すると、虚言回数は急ピッチで増えつつあることを示しており、また、最近の3か月では毎日平均「15.4回」というすさまじいペースだ。

 しかも事実と異なる発言ながら、同じ間違いを最低3回は繰り返してきたケースが「113回」もあり、その中には「自分は大統領として史上最大規模の減税を実現した」(実際は史上8番目)との表現を様々な機会に「72回」も使っていた例もあった。ロシアが2016年米大統領選挙に介入した事実はこれまでのあらゆる公的米情報機関調査で明確になっているにもかかわらず、大統領が「ロシア関与説はでたらめ」と言明してきた回数は「53回」に達している。

 またつい最近では、昨年プエルトリコに甚大な被害をもたらしたハリケーン「マリア」に関する大統領発言が、物議をかもしている。

 ホワイトハウスで記者団を前に大統領は「わが政府が展開したプエルトリコでの災害対策・救援作戦は信じがたいほどの成功を収め、死者も6~8人程度ですんだ」と豪語して見せた。ところが、実際の死者は「推定3000人以上」に達しているだけでなく、島民の半数近くはいまだに水や電気を十分に使えず困窮生活を強いられており、首都サンファン市長はじめ地元側からトランプ発言に対し猛烈な反発を引き起こした。

 こうしたことは、マスコミを十把一絡げに「フェイク・ニュース」と一蹴してきた大統領のこれまでの数限りない発言の大半が、実は「フェイク」であったことを如実に示している。

 しかし大統領はその後、さらにマスコミ批判を強め「フェイク・ニュース」から攻撃性の濃い「米国人民の敵(enemy of American people)」との表現を使い始めた。偏狭で超保守主義的な一部のトランプ支持層の心情をかきたてることを意識したものだ。

 とくにこの言葉が飛び出してきたのは、去る7月、ヘルシンキでの米ロ首脳会談でプーチン大統領に媚を売るような醜態を演じたことが米マスコミで大々的に報じられ、連邦議会共和党幹部たちからも酷評されたことに端を発している。

 そしてその後は、大統領が顔を出す地方の政治集会などでは、取材の同行記者団に対し、トランプ支持派の聴衆から「人民の敵」のヤジが浴びせられ、同じ表現のプラカードが報道陣の前に数多く掲げられるケースが増え始めてきた。

 大統領のメディア批判はさらにとどまることなく、つい最近ではテレビ局や新聞社の特定の記者たちを名指しで非難するほど先鋭化してきた。“各個撃破”の様相を呈し始めており、報道に携わる関係者たちの間で身辺警護を強める人たちが増えている。各地の報道関係機関の建物も、暴漢の襲撃を警戒し、玄関の出入りチェックを強化する動きも出てきた。

 ニューヨーク・タイムズの場合、自社の記者たちに対する脅迫が増加しつつあるため、編集局の入り口に武装警備員まで配置しているという。

 これまでに大統領から個人口撃を受けたジャーナリストの中には、ウォーターゲート事件報道でニクソン大統領を追い詰め、ピューリツァー賞を受賞したワシントン・ポスト紙のカール・バーンシュタイン記者も含まれる。

 同氏は今年7月、、CNNが放映した特ダネ番組の中で、モラー特別検察官が捜査中の「ロシア疑惑」に関連してトランプ氏が、長男トランプ・ジュニアら同陣営とロシア側弁護士との間で行われた秘密会談を事前に知っていたと報じた。これを受けてトランプ氏は最近、バーンシュタイン氏を「お粗末で退化した愚人でアメリカ中で笑いものになっている」などと酷評した。


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