2024年11月22日(金)

日本人秘書が明かす李登輝元総統の知られざる素顔

2018年9月28日

 後に李登輝は、学生たちが寒さに震えながら座り込みやハンストをしていることを聞き、自分が中正紀念堂へ出掛けて直接学生たちと対話しようと思ったと話す。しかし、国家安全局による「身の安全を保証できない」という強い意見具申により、夕方に車両で中正紀念堂へ行き、学生たちの様子を観察するに留めたというのだ。

 数日後、李登輝は学生の代表を総統府へ招いてその要求に耳を傾けるとともに「皆さんの要求はよくわかりました。中正紀念堂に集まった学生たちを早く学校に戻らせ、授業を受けさせなさい。外は寒いから早く家に帰って食事をしなさい」と声をかけている。

 総統の李登輝と面会した夜、学生代表団は協議し、中正紀念堂における占拠を翌日に終了し解散することを決めた。そして李登輝は学生との約束通り、タイムテーブルを発表し、民主化を本格的に推し進めていくことになる。

「若者は国の宝」という揺るぎない想い

 こうした、李登輝の日台の若者に対する態度を見てもわかるように、李登輝は本当に若者を大事にする。そして若者の声に耳を傾ける。自分の意見を押し付けるようなことは決してなく、若者が何を考えているのか、なぜ自分の意見と違うのかをとことん聞こうとする。こうした姿勢の源にあるのは「若者は国の宝だ」という思いがあるからだ。

 多少体調が悪くとも、連日のようにスケジュールが入っていても、若者たちが「会いたい」と言ってくれば、特に「日本から来る」といえば、李登輝は即決で「OK」と言ってしまう。日本との窓口を任されている私が「ちょっとスケジュールが立て込んでいますからお断りしても」と口を挟んでも、「若い日本人には、昔の日本人が台湾にどれだけ貢献してくれたか。これからの日本には台湾がどれだけ大事かを伝えなきゃならないんだ」の一点張りだ。

 そばに仕える私としては、95歳という老体に文字通り鞭打って働く李登輝の熱い「想い」が込められた言葉を、少しでも多くの日本人が真摯に受け止めてくれることを願うしかないのである。

連載:日本人秘書が明かす李登輝元総統の知られざる素顔

早川友久(李登輝 元台湾総統 秘書)
1977年栃木県足利市生まれで現在、台湾台北市在住。早稲田大学人間科学部卒業。大学卒業後は、金美齢事務所の秘書として活動。その後、台湾大学法律系(法学部)へ留学。台湾大学在学中に3度の李登輝訪日団スタッフを務めるなどして、メディア対応や撮影スタッフとして、李登輝チームの一員として活動。2012年より李登輝より指名を受け、李登輝総統事務所の秘書として働く。

  
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