2024年12月3日(火)

日本人秘書が明かす李登輝元総統の知られざる素顔

2018年7月13日

台湾の元総統・李登輝さんが考える「理想のリーダー像」とは――? 唯一の日本人秘書である早川友久さんが、李登輝さんの言葉の真意を読み解きながら、その素顔を明かしていきます。(⇒この連載のバックナンバーを見る

元台湾総統・李登輝氏、2018年6月、沖縄にて(写真:筆者提供・)

「皆さん、日本と台湾のために奮闘しましょう」。振り絞るような声でステージから語りかけた李登輝の姿に、感極まったのか泣いている聴衆も見えた。今月上旬、李登輝は台北市内のホテルで、200人を超える日本人を前に講演した。

沖縄講演で「中国の覇権主義」を強く批判した真意

 今年95歳。先月の沖縄訪問を無事に終えたとはいえ、体力は落ちてきている。公の場で講演する機会も減って来た。それでも台北市日本工商会(商工会議所)からの講演依頼には「日本人に伝えなければいけないことがあるんだ」と快諾した。

 原稿の内容は沖縄で行ったものを基礎に練った。もともとは司馬遼太郎さんとの交流をテーマにした原稿を考えていたのだが、直前になり「沖縄の原稿にしよう。せっかく台湾にいるたくさんの日本人を前に話すのだから、言っておかなきゃならないんだ」と差し替えた。

 原稿は、中国の覇権主義を強く批判する箇所もあり、沖縄では新聞が「李氏がここまで踏み込んで中国の覇権的な動きを日本での講演で指摘したのは異例」と書くほどだった。

 ただ、それは李登輝の日本に対する限りない期待の表れとも言える。

 実際、原稿のなかで「中国の覇権的な膨張を押さえ込みつつ、平和的な発展を促すため、最も重要かつ必要なものは日台の関係をより一層強化することに他ならない」と断言するように、常々、台湾にはどうしても日本が必要だし、日本にも台湾が必要だ、という信念がある。

 決して体調が万全ではないなか、「日本はアメリカに頼るな。憲法を改正して、アメリカに頼るのではなく、対等な協力関係を結ぶんだ」と力強く訴える李登輝の姿は鬼気迫るものさえあった。その気持ちが通じたのかもしれない。講演が終わると万雷の拍手に包まれた。

 そのまま退場する予定だったが、やおらマイクを握り、冒頭の言葉を投げかけた。隣で腕を支えていた私も内心「やっぱり千両役者だ」と舌を巻いた。


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