2024年4月20日(土)

日本人秘書が明かす李登輝元総統の知られざる素顔

2018年7月13日

「やたら日本びいき」という非難は当らない

 李登輝は、指導者が常に頭に置いておかなければならないのは「国家」と「国民」だという。そして、李登輝にとっては、自分の国である台湾だけでなく、常に日本のことも気にかけている。

 もちろん台湾をないがしろにしてまで日本の肩を持つようなことはありえない。ただ、あまりにも日本に期待するせいか、その心情が理解されず「やたら日本びいきだ」と非難され、ネット上では罵詈雑言も飛び交う。

 しかしそれは違う。

 というのも、李登輝は祖国である台湾が「存在」していくためには、日本がどうしても不可欠だということをよく理解しているからだ。台湾社会では、選挙の際などにマグマのように「独立か、統一か」の論争が噴き出し、中国は虎視眈々と台湾の併呑を狙っている。

 しかし、李登輝が常々言うのは「独立か、統一かという問題よりも、台湾にとって最も重要なのは、台湾が『存在し続けること』にある」ということだ。台湾は、日本や中国と比べても小国であり、台湾だけでその存在を維持していくにはあまりにも心もとない。しかし、民主主義や自由という同じ価値観を持つ日本の協力を得られれば、台湾はその「存在」を維持することが可能になる。そして李登輝曰く「台湾が存在していればこそ、そこに希望が生まれる」というわけだ。

 実際、日米安保体制においても、「台湾地域」が日米安保条約の対象だと、日本政府の統一見解で明言されている。こうした現実的な面からいっても、李登輝が台湾を第一に考えたうえで、協力関係を築く相手こそ日本であると考えているのであって、決して「日本びいき」だけで日本の肩を持っているわけではないということの証左である。

2018年6月、沖縄にて(写真:筆者提供)

「皆さん、日本と台湾のために奮闘しましょう」。この言葉も、決して日本人に向けたリップサービスではない。李登輝は心の底から日本と台湾が手を取り合い、アジアに貢献することを願っている。そして、そのためには95歳という高齢でありながらも、自分に出来ることは何でもやるという気持ちでいることは間違いない。

 側にいる私には、その李登輝の気持ちが痛いほど分かる。だからこそ、日本人として李登輝に感謝しつつも、その思いを少しでも日本の皆さんに伝えたいと思うのだ。

連載:日本人秘書が明かす李登輝元総統の知られざる素顔

早川友久(李登輝 元台湾総統 秘書)
1977年栃木県足利市生まれで現在、台湾台北市在住。早稲田大学人間科学部卒業。大学卒業後は、金美齢事務所の秘書として活動。その後、台湾大学法律系(法学部)へ留学。台湾大学在学中に3度の李登輝訪日団スタッフを務めるなどして、メディア対応や撮影スタッフとして、李登輝チームの一員として活動。2012年より李登輝より指名を受け、李登輝総統事務所の秘書として働く。

  
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