2024年12月22日(日)

西山隆行が読み解くアメリカ社会

2018年9月28日

 アメリカの未来を決定する上で重要な中間選挙が近づく中、バラク・オバマ前大統領が選挙活動を開始し、注目を集めている。オバマはドナルド・トランプ政権を「民主主義に対する脅威」と呼び、トランプが「怒りを利用」し、白人至上主義者に迎合していると批判した。「共和党はもはや保守ではなく過激主義だ」、「国境の壁を作ってもテロや疫病は減らない」、「彼らはロシアにこびている」など、手厳しい発言が続いている。

 オバマは、トランプ大統領が、気候変動抑制に関する多国間協定であるパリ協定や、環太平洋パートナーシップ協定(TPP)からの脱退を宣言するなど、自らの業績を覆していることに対し不満を感じているだろう。また、トランプ政権の統治がアメリカ民主主義を危機に晒しているという思いがあることも間違いないだろう。オバマ自身に、再び政治に関与するインセンティブがあるのは明らかである。とはいえ、日本の首相が退陣後も背後から政治的影響力を行使しようと試みるのとは違い、アメリカの大統領は退任後は表舞台から遠ざかり、政治的発言を控えるのが一般的である。前大統領が後任者にここまで辛辣な発言を行うとともに、選挙活動に関与するのは、極めて異例である。

中間選挙に向けて応援演説を行うオバマ前大統領(写真:ロイター/アフロ)

民主党支持者から絶大な人気を誇るオバマ

 オバマは、民主党支持者から絶大な人気を誇っている。2017年6月のギャラップ社の調査では、民主党支持者の95%がオバマに対し好意的な見解を持っている。今年6月にピュー・リサーチ・センターが行った調査では、オバマを自分が生きている間で最も良い仕事をした大統領だと評価した割合は民主党支持者の51%に及び、二番目に良い大統領だと評する人も合わせるとその割合は71%に及ぶ。いずれの数字も、フランクリン・ローズヴェルト以降の大統領で最大である(なお、共和党支持者内で最も評価が高いのはロナルド・レーガンで、数字はそれぞれ41%、57%である)。また、民主党支持者の間ではオバマのような候補とサンダースのような候補のどちらを望むかと問うた今年7月のYouGov.の調査では、サンダースよりもオバマの方が評判が良い。このような状況で、民主党がオバマに頼ろうとするのは理解できなくはない。

 ただし、オバマが選挙戦に関与することが、果たして民主党に有利に働くかは検討の余地がある。

 たしかに、オバマは大統領選挙に際してマイノリティと若者を投票所に向かわせる上で多大な貢献をした。だが、民主党はオバマ政権期に迎えた二度の中間選挙(2010年、2014年)で敗北している。いずれの選挙に際しても、その二年前の大統領選挙と比べて民主党への投票数は40%ほど落ち込んでいる。なお、同じ二度の中間選挙での共和党への投票の落ち込みはそれぞれ14%と32%である。オバマは有権者の支持を自らに対して集める能力は優れているが、その支持を他の人に向けさせるのは得意でない可能性がある。

 また、近年のアメリカ政治では政治家のレベルでも有権者のレベルでも分極化が進んでいるが、共和党支持者の間ではオバマは悪しき時代の象徴となっている。実際、ウォールストリートジャーナル紙のジェイソン・ライリー論説委員は、オバマ大統領の選挙活動は、中間選挙までの期間に共和党がまさに必要としていることかもしれない、という皮肉を記している。また、共和党のマルコ・ルビオ上院議員やクリス・クリスティ元ニュージャージー州知事などは、トランプを擁護する発言は行っていないが、オバマを批判する形で共和党の結束を求めている。オバマが声を上げることで、トランプの共和党に不満を持つ人であっても、共和党支持者として結束しやすい状況ができたのである。現在の民主党支持者を突き動かしているのがトランプに対する不満だとすれば、オバマが前面に出ることが共和党支持者、とりわけ保守派を突き動かす可能性が十分にある。

 トランプが選挙戦に関与するのが共和党に利益をもたらすかが不明なのと同様に、オバマが選挙戦に関与しても民主党にとって本当にプラスになるかはわからないのである。


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