西山隆行が読み解くアメリカ社会

2018年9月28日

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西山隆行 (にしやま・たかゆき)

成蹊大学法学部教授

東京大学大学院法学政治学研究科博士課程修了、博士(法学)。甲南大学法学部教授を経て現職。専門は比較政治・アメリカ政治。著書に『アメリカ型福祉国家と都市政治』(東京大学出版会)、『移民大国アメリカ』(筑摩書房)、『アメリカ政治』(三修社)、『アメリカ政治入門』(東京大学出版会)、5月に『アメリカ政治講義』(筑摩書房)が刊行予定。

 各種世論調査によれば、今年の中間選挙に対する国民の関心は記録的に高いが、民主党支持者の関心は共和党支持者のそれよりも一貫して高い。今年の中間選挙は、トランプ政権の中間評価という意味が込められているのに加えて、連邦議会上下両院の多数派をいずれの政党が握るかに注目が集まっている。今年引退を表明したアンソニー・ケネディ判事の後任としてトランプ大統領が指名したブレット・カバノーの承認問題も関連して、とりわけ高い関心がもたれている。連邦最高裁判所判事に保守派が選ばれれば、現在認められている人工妊娠中絶や同性婚が認められなくなる可能性があるからである。

 そもそも、大統領が初めて当選した二年後に行われる中間選挙では政権党が議席を減らすのが一般的である。トランプ大統領に対する民主党支持者の支持率が1割前後と例外的なまでに低いことを考えても、今年の中間選挙は民主党にとって有利なはずである。このような状況で、前大統領が現役大統領について論評するのは避けるという前例を破ってまで、オバマを担ぎ出す必要性があるのは何故だろうか。

人材不足に陥っている民主党

 このような状況であるにもかかわらず、中間選挙で、民主党がオバマに頼らざるを得ないという事実は、民主党が現在大きな問題を抱えていることの裏返しだともいえる。

 第一に、今の民主党には、党の顔というべき人物、そして党全体をまとめることのできる有力者が見当たらない。2016年大統領選挙時には、ヒラリー・クリントンを支持する穏健派とバーニー・サンダースを支持するリベラル派(左派)の分断が明確になった。両派の主導権争いが続いている中、ヒラリーやサンダースが選挙の顔になるのは適切でない。セクシャルハラスメントや性的暴行の被害体験を告発するMeToo運動が活発化している中では、性的スキャンダルにまみれていたビル・クリントン元大統領を担ぎ出すこともできない。民主党院内総務であり、2007年から11年にかけて下院議長を務めていた左派のナンシー・ペロシ元下院議長は、共和党が民主党を批判するために最も頻繁に名を出す人物であり、穏健な有権者の支持を集めるのには適任ではない。

 このような状況では、スキャンダルが皆無で、夫婦そろって民主党支持者から絶大な人気を誇るオバマに対する期待が集まるのは不思議ではない。だが、これは民主党が明らかに人材不足に陥っていることの裏返しなのである。

 第二に、民主党内の穏健派とリベラル派の対立が鮮明になっていることがある。アメリカの二大政党は綱領政党ではなく、様々な利益集団の集合体とでも呼ぶべき性格を持っている。民主党リベラル派を構成する人々は、人種やジェンダーの点におけるマイノリティ、環境保護運動の活動家、平和運動の活動家、公的扶助拡充派などである。オバマは2008年大統領選挙の際に、穏健な立場に立つヒラリー・クリントンに代わる候補として、これらリベラル派によって擁立された人物である。

 だが、大統領就任中のオバマは、かなり現実主義的な立場をとっていた。オバマは大統領の任期中、中東地域で無人機(ドローン)による爆撃を繰り返したり、史上最大規模で不法移民の強制送還を行ったりするなど、本来であれば民主党リベラル派が忌み嫌うような政策をとり続けてきた。

 にもかかわらず、オバマは、不思議なまでにリベラル派の間で人気が高い。これは、オバマが人を魅了し共感させる能力が不思議なまでに高いことを示している(ただし、オバマはスピーチをさせれば皆を魅了するが、個別に会った人を不愉快にさせるという評価もある。魅力の源泉は、コミュニケーション力というよりは、スピーチの力である)。いうなれば、オバマはスタイルやアプローチという、イデオロギーとは異なる次元で民主党支持者を魅了しているのである。これは、オバマが民主党の穏健派とリベラル派の間を架橋することのできる人物であることを示しているが、同じことができる人物は他にはいないだろう。

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